人の名誉を毀損するという事態は、インターネットを経由してなされたときには、広く、国境を越えて拡散し、相手が世界的に著名な人物であれば、巨額の賠償責任を生じさせることにもなりかねない。この問題を伝統的な国際私法ルールに沿って解決するときには、裁判管轄、準拠法の決定という問題を解決しなければならない。他方で、越境紛争の場合、名誉毀損の結果が複数の国で生じ、重複的な訴訟が行われる可能性も出てくるし、原告が法廷地漁りを目的とした訴訟を仕掛けることもありうる。 この事態を体現したのがアメリカ人作家のEhrenfeld氏とサウジアラビアの富豪Mahfouz氏の間の訴訟であった。表現の自由、出版の自由を厚く保護するするアメリカ合衆国法と、l個人の名誉を尊重するイングランド法との対立が、両国法の間で保護利益が異なることを鮮明にし、統一的な解決を不可能にした。その一方で、EU法が個人のプライバシー保護と社会的不正義の是正のための報道の必要性とのバランスを図る動きを示し、各国法の動向が動いていくなかで、イングランド法における伝統的な名誉毀損法制が変更を迫られていく流れを追求した。イングランド法を継受したオーストラリアにおけるGutnik判決も踏まえながら、 インターネットという新しいメディアを通じて発生する不法行為としての名誉毀損の解決について意義ある解決策を示した先例といえる。 わが国の国際私法における、インターネットというメディアを通じた名誉毀損の解決の在り方を明確にするうえで貴重な素材を提供すると言える。さらに、近時はふぇいくにゅーすという現象も発生しており、誰が、どのような責任を負うべきかを検討することにもつながる議論が展開されているといえる。
|