研究課題/領域番号 |
26380159
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
辻 康夫 北海道大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (20197685)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 多文化主義 |
研究実績の概要 |
マイノリティの文化・コミュニティを尊重する「多文化主義」の政策には、複数の競合する理論が存在するが、それらを関係づける試みが欠落しているために、理論、実践、政策論争において深刻な混乱が生じている。こうした現状をふまえて、本研究は主要な理論を「3つのアプローチ」として分類・整理したうえで、それらを相互補完的に組み合わせ、<多文化主義の「複合的アプローチ」>を構築することを課題としている。さらにこれに個別政策を結びつけ、バランスが取れ、多様な政策領域をカバーするビジョンを提示することをめざすものである。初年度にあたる26年度は、第一に、本研究で用いる資料・文献のリストを作成し、その収集をおこなった。あわせて、書籍などの印刷媒体にくわえて、映像・ウェブメディアを利用しながら、諸国における多文化問題の現状および多文化性の表象の分析のための情報の収集をおこなった。第二に、本年度はとくに「文化アプローチ」をめぐる理論的整理を行うとともに、近年の展開をフォローした。「文化アプローチ」に関しては、キムリッカ流の一般的モデルにかわって、少数派言語権、宗教的権利、土地権などの個別の争点をめぐる議論に比重が移っており、従来の枠組みの改善にいたる可能性が存在しているとの知見を得た。第三に、「差異の政治アプローチ」についての理論的検討に着手した。第四に、事例研究として本年度は先住民政策に重点を置き、カナダやニュージーランドの事例を中心に、論争の現状と政策の展開の状況についての資料収集を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
全体として、26年度当初に計画した諸作業に予定通り着手し、おおむね想定通りの作業を行うことができた。本研究に用いる文献の収集や、政策・論争の背景となる社会状況に関する情報収集は予定通り進めている。「文化アプローチ」をめぐる理論的整理や、近年の展開のフォローについても、予定通り行うことができた。「差異の政治アプローチ」についての理論的検討についても予定通りである。先住民をめぐる事例研究についてもおおむね計画通りすすめることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後も当初の研究計画に沿って研究を続行する。平成27年度は、第一に、前年度に続き、文献の収集および諸国の現状および政策展開の情報収集を継続する。第二に、理論分析としては「文化アプローチ」「差異の政治アプローチ」にくわえて、「アイデンティティ形成アプローチ」の分析を行う。とくに「アイデンティティ形成アプローチ」を後期近代論やソーシャルキャピタル論、都市政策論と照合しつつ理論的深化をはかる。また事例分析としては移民に重点をおいて、理論研究との照合を行う。第三に三つのアプローチの関係の分析に着手する。事例分析としては、移民の統合の問題をとりあげて、現状および政策展開について分析する。平成28年度は、これらの作業を継続するが、とくに三つのアプローチの関係の検討に重点をおき、これをふまえた、複合的アプローチの形成をめざす。以上の作業の過程を通じて、各分野の研究者との意見交換を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
作業が予想以上に進み調査研究旅費を節約できたこと、注文した書籍の一部の到着が遅れて年度内に購入できなかったことにより、次年度に使用する研究費が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
この研究費は、次年度に請求する研究費とあわせて、調査研究のための旅費、多文化主義理論研究図書、先住民問題研究図書、人種問題研究図書、福祉国家およびソーシャル・キャピタル研究図書の購入に使用する。
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