本年度は、(1)これまでに形成した政党組織変化の理論枠組に基づき、イギリスの二大政党の組織変化について結論づける、(2)政党組織変化が、イギリスの政党システムの変化との間にどのような関係性を持つかについての分析を行う、(3)政党システムの変化を、イギリス民主主義全般の中に位置づけ、それが持つ意味について検討する、という3点において、下記のような成果を見た。 (1)については、イギリス労働党の組織変化に焦点を定め、ドイツ社会民主党や日本社会党との比較も含めながら検討し、個人党員の参加を中心とした組織改革が行われた点に特徴があるが、現在においては、その効果が薄れつつあり、新たなジレンマを生み出している点について解明し、『社会民主主義は生き残れるか:政党組織の条件』(勁草書房、2016年)として公刊した。 (2)については、1990年代末のイギリスにおける分権化によって、選挙制度のマルチ・レベル化という状況が生まれたが、それに対する保守党・労働党の組織的対応が移行過程にあり、そのことが、イギリスの政党システムに対しても多党化といった形で影響を及ぼしつつあることについて解明し、日本比較政治学会において「イギリスにおける多党化と選挙制度」と題する口頭発表を行った。 (3)については、上記で見たような政党組織変化と政党システムの変容が、これまで「多数決型民主主義」の典型とみられてきたイギリスの民主主義に、「分解」とも呼ぶべき大きな変化をもたらしていることについて解明した。この成果については、2017年度中にも公刊する予定である。 期間全体を通じて、1990年代以降にイギリス保守党・労働党の組織改革が集権化の方向に進んだこと、しかし2000年代以降には分権化に応じた新たな組織改革が試みられているが、その効果が現れず、多党化などの政党システムの変化が生じている点について解明した。
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