本研究は、選挙を行う権威主義体制としてのイラン・イスラーム共和国体制の民主化過程の研究に、社会科学における新制度論の手法と知見を導入することで、イデオロギー的権威主義体制において、根本的(ラディカル)な変革を求める運動とは異なる制度内的改革運動が直面する困難さの理論的および政治的な背景を浮き彫りにすることを目的としている。 本研究の重要性は、2013年に改革派・穏健派の支持を得てロウハーニー政権が成立し、イラン国内において改革への希求が再び高まっている文脈において、イランのようなイデオロギー的権威主義体制の改革の困難さを、理論的および実証的な手法で研究する世界的にも数少ない研究の一つであると位置づけられる。 最終年度である平成28年度は、関連文献および研究データの収集・取り纏めを引き続き行う一方で、8月にワシントン州シアトルにおいて開催されたアメリカ社会学会の中東分科会において研究発表を行い、またイラン(コム)における現地調査を実施した。研究発表では、1979年のイラン・イスラーム革命直後期から35年間に亘る期間に、イラン国家による謀反・反逆罪に関するイスラーム刑法の制定・改定がなされた過程を詳しく分析することを通じて、イランにおける権威主義体制の構築が実際にいかになされ、変化する社会・国際情勢に応じて、それがいかに変容を遂げてきたかを分析し、その背景と意義の説明を行った。現地調査においては、コムのイスラーム神学学院における伝統的イスラーム法学の現代的展開の過程を実証的に研究するための資料収集および聞き取り調査を実施した。 当初予定より実質面での研究過程が長引いたため、3年間に亘る研究成果を欧米の一流の研究雑誌の査読付き論文および米国の大学出版会から単行本として出版する準備にまだ十全な形で着手できないままでいる。そのため後続の研究費を申請・取得することを検討している。
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