平成28年度は、「半議院内閣制」という戦後ドイツの統治機構上の特徴が政権運営に与えた影響に関する研究報告を日本政治学会2016年度研究大会(於・立命館大学)で行った。そこで得られた知見は、(1)小政党側からの影響力は、最大野党との合計議席率というサイズの問題と、政党間の連立可能性という政策距離の問題という2つの要素によって規定される、政権離脱の現実的な威嚇力に左右される、(2)戦後ドイツの政党政治は、小政党の影響力という観点から、大きく3つの時期に区分される(第1期は、小政党が最大野党と提携しても過半数を取れずに最大与党CDU/CSUが圧倒的優位に立つ1949~61年、第2期は、小政党が最大野党に乗り換えると政権交代が生ずる3党制の時期(1961~83年)、第3期は、多党化が進み、連立相手の組み替えだけでは政権交代が難しくなった1983年以降の時期)。 研究期間全体を通じて得られた知見は以下の通りである。 (1)建設的不信任制度など様々な制度的権限に支えられている連邦首相の地位は強力なものであるが、議院内閣制であることから、連立与党の連邦議会議員団からの支持を保ち続けなければならず、連立相手の小政党との関係も重要となる。 (2)連邦政府と連邦参議院が権力分立の関係に立つ「半議院内閣制」であることから、連立与党が連邦参議院で少数派となる分割政府状態の時には、連邦野党との交渉が立法過程を大きく左右する、 (3)戦後ドイツにおける要政党(pivotal party)として、小政党ながら二大政党を凌ぐ政権参加歴を誇ってきたFDPは、ドイツ統一後、党の中長期的な支持獲得を支えてきた外交政策での意義を喪失し、野党期が増加したことによって、党の政治的資源であった政治家育成機能を大きく低下させてポピュリスト政党化の傾向を強め、党の凋落を加速させていった。
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