研究課題/領域番号 |
26380177
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
堀江 孝司 首都大学東京, 人文科学研究科(研究院), 准教授 (70347392)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 福祉国家 / 世論 / イデオロギー / 新自由主義 / 右傾化 |
研究実績の概要 |
本研究は、福祉国家や新自由主義、その関連領域に関する既存世論調査の収集・分析を通じ、世論の動向を歴史的に探るとともに、類似質問・関連質問への反応などから、それらの問題についての人びとの認知構造に接近し、またそこに働き掛ける政治のフレーミング効果をも分析するものである。なお本研究は、私が研究分担者として参加している、基盤研究(B)「社会規範・政策選好・世論の形成メカニズムに関するパネル調査」とも連動している。 1年目に当たる26年度はまず、原発をめぐる世論を題材に、世論調査のフレーミング効果や政治的機能を分析した論考を発表した。同論文は、直接的には原発についての世論調査の分析の形を取っているが、内容的には理論的なものであり、特にステーク・ホルダーの範囲や民主主義との関連などの論点を提示した。また、内閣支持や経済政策、外交・安全保障政策などを扱う世論調査や世論の右傾化の分析などについての論考も、いくつか発表した。中長期的に継続している既存世論調査の分析からは、巷間いわれているような形での世論の「右傾化」は確認できない点や、内閣への評価や支持のあり方が、しばしば指摘されるポピュリズム型のものではなく、むしろ業績や実行力への関心が高まる中で、プロへの「お任せ」といった態度が看取されることなどを指摘した。 世論調査のワーディングの効果については、先行研究においても、また私自身も分析してきたところであるが、文言に対する人びとの反応というレベル以前に、世論調査の問題設定自体がすぐれて「政治」の所産であるという側面についても、いくつかの指摘を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究計画では、1~3年目を通じて、B.既存世論調査の収集・データベース化を行うとした他、1、2年目に、A.世論調査のワーディングの分析(フレーミング効果)→分析枠組みの構築、およびC.ワーディング・フレーミング効果の分析を行うとしていた。 Bに当たる作業は、以前から行っており、1年目に当たる26年度も継続して行っている。26年度においても、いくつかの論考や研究会報告等において、収集したデータは、折に触れ活用している。 A、Cの作業も、これまでに部分的に行ってきたものであるが、26年度には、一部の業績において、部分的に活字化した。他にも、いくつかの研究会での報告を通じて、既に公表している知見もある。 特に26年度の展開としては、世論調査のフレーミング効果を、狭い意味でのワーディングの問題として捉えるより、より大きな政治的文脈の中での議題設定の問題と結びつけた。27年度以降には、それらについても活字化を進めていきたい。 26年度の後半には、本研究課題の中心的な部分となりうる理論的な論文を、勤務先の紀要に執筆する予定であったが、イギリス政治学会で日本の反原発運動について報告するよう依頼を受けたため、執筆がかなわなかった。同報告論文も、本課題と関係がないわけではなく、また本課題に即して収集しているデータを用いてもいるのであるが、26年度に予定していた理論的な論文の執筆には至らなかった。そのため、やや予定に遅れが生じているといえる。同論文については、27年度に執筆する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2年目に当たる27年度には、上記のAとCの作業がほぼ完成に近づく予定である。そのため、Bに当たる作業は引き続き継続するものの、本年度は理論的な検討の比重が大きくなることとなる。 具体的には、世論調査と政治についてのより包括的な検討を進める中で、本課題についての総論的な論考をまとめる。一部は既に研究会などで話しているが、本格的な活字化のために、理論的な先行研究の検討をさらに進めるとともに、分担研究者として参加している上記のパネル調査が最終年度に当たるため、年度末にはそちらのデータが揃う。そちらの成果を組み込むことで、いくつかの理論的問題に展望が開けることも期待している。 上記のとおり、世論調査の政治的機能についての研究を進める中で、本研究の射程は狭義のフレーミングからより広く、世論調査がもつ議題設定機能にまで広がっている。政党や内閣に対する支持の基準が、必ずしも政策ではないということは従来も指摘されてきたが、近年の有権者の判断基準は、単純なパフォーマンスや党首の個人的な人気などでもなく、むしろプロとしての手腕や実行力、業績などにある可能性を、26年度にはいくつかの論考や研究会の報告において示唆している。それは、今後さらに解明すべき課題であるが、既存のデータからどのような接近ができるかについては、なお検討の余地がある。マスコミの論調の分析が一つの鍵になると見込んでいるが、その点についても、今度の理論的な検討の中で方針を定めていく予定である。 また、共同執筆中の政治学の教科書において、「マスメディアと世論」の章を担当しているので、そこにおいても、本研究課題のテーマをよりわかりやすい形で示すことができると考えている。
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