福祉国家と新自由主義をめぐるイデオロギーについては、多くの議論があるが、本研究は主に世論調査から、どのようなことがいえるかを検討するものである。同様の問題関心から、今までいくつかの論考を発表してきたが、本研究では時間軸を過去に長く広げることで、新自由主義が実際に支持を広げてきたのかどうかを検証した。 その中心的関心に関わる論考として、本年度は「福祉国家と新自由主義への支持をめぐる一考察」と、そのエッセンスをまとめた「新自由主義は勝利したのか」という小文を発表した。これらで示した知見の一部を要約する。新自由主義が台頭したとされる時期以降も、世論調査では「福祉」や「社会保障」への支持が高いことは過去にも指摘したが、今回は、その傾向が2000年代以降、むしろ強まっていることも確認できた。 他方、新自由主義的な政策への支持は、必ずしも高いとはいえない。そもそも、新聞記事や国会議事録の検索によれば、新自由主義とは、その負の側面に注目が集まった時期に使用が増した語で、むしろ批判する側が用いる語であることがわかる。とはいえ、公共サービスの民間委託などへの反対が強いわけではなく、むしろ社会保障に比べ顕在化の度合いは低い。新自由主義の台頭は、政策に対する意見というよりは、気分のようなものとして現れている可能性もあると考え、新自由主義と親和性の高そうな個人主義化についての調査項目も検討の対象としたが、むしろ個人主義化の傾向は弱まっていた。 これらの作業から浮かび上がったのは、世論調査自体のもつ政治性という論点であるが、とりわけアジェンダ・セッターとしての世論調査という役割とアジェンダ・テイカーとしての役割という二面性を捉えることの重要性が指摘できる。 その他に今年度は、家族やジェンダーについての政策言説を分析することにより、側面的にこの研究課題と関係しそうな論考を執筆している。
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