本研究は、行政学と地方財政論の視点から「融合型の地方自治制度における『二重行政』の研究」をテーマとした。広域的自治体・府県と基礎的自治体・市町村との関係における「二重行政」論に関して、「二重行政」の非効率やムダなど病理に偏っていた自治体現場を中心とした「二重行政ムダ論」・「悪い二重行政」論の視点に加えて、自治の総量を高めるなど連携・協働する「二重行政」の実態・機能といった「良い二重行政」の面にも注目して、既存の議論を整理・分析しつつ実証的に研究しながら理論的な仮説を提示することを目的とした。「二重行政」の機能的側面も含めて最新動向を踏まえて融合型自治制度がもつ柔軟性と可能性を再発見しながら、結果として府県制度を再評価することになり、道州制導入論やさらなる市町村合併論に対して批判的な知見と論拠を提供して、府県機能の具体的な維持・発展の方向性を学術的に提示する意義がある。 研究期間の最終年度の平成28年度は、それまでの2年間の研究で政令市と道府県における一見「二重行政」にみえるような施策・事業でも道府県と政令市が相互に補完・連携しながら地方自治を充実させている実態面が分析されたことをふまえて、さらに府県・府県出先機関と市町村との間における「二重行政」のような状態も「良い二重行政」・垂直連携と考えられることに注目して、奈良県や、長野県・北安曇地方事務所と松本市、静岡県賀茂振興局と下田市、鳥取県日野振興局と江府町、高知県と南国市などにおいてヒアリング調査などを実施した。 その結果、地方創生でみられる「集権・競争型自治」と異なり、「分権・協働型自治」として小規模であっても自律した自治の取り組みを行っている市町村や市町村間連携と府県による垂直連携など多様な「良い二重行政」・自治体間連携を充実させることが、自治の総量を拡大することになるのではないかという仮説を提示した。
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