議院内閣制を採用するといわれる日英両国にあって、それとは必ずしも一貫性をもたない制度や政治運営のあり方が近年、注目されるようになってきた。本研究は、こうした現象を考察することを目的として行われた。その際、議院内閣制の理論的実証的問い直しも行うことが必要と考えられた。そこで本研究では、議院内閣制の理論的実証的考察と、これとは一貫性を必ずしももたない制度や政治運営のあり方の検討が行われた。 議院内閣制は基本的に有権者から議会、政府へとつながる一元的な委任関係に特徴がある。そこでまず、議院内閣制の理論的実証的考察では、議院内閣制における根源的問題である有権者から議会・政権党そして政府につながる一連の関係を分析し、日英両国における議院内閣制がいかなる問題に直面しているのかを確認した。本研究が特に注目したのが、代表性と応答性、正当性、政策運営の効率性と効果、そして権力のコントロールである。 続いて、日本では参議院、英国では貴族院や権限委譲議会、最高裁判所が、どのように議院内閣制の中核となる下院と政府を拘束するのかを検討した。さらに英国については、政治のルール化や透明化の推進、政策決定の事後の検証についても本研究の検討対象とした。 以上を踏まえ、本研究は、こうした変化が日英両国の議院内閣制に対していかなる意味をもつのかという位置づけを行なった。特に本研究では、マディソン主義的改革という視座を導入することで、一連の改革を捉えようとした。小選挙区制を基礎とする多数代表型(マジョリタリアン)デモクラシーに対し、マディソン主義的システムとは、政治権力に対する不信感に基づき、権力の主体を分割した上で、高次のルールでこれを拘束しようとするシステムである。そうした方向性を示す改革をマディソン主義的改革と称した。
|