本研究は,イギリスのスコットランド国民党とウェールズ国民党の事例を取り上げ,多層ガヴァナンスの進展により生じた環境変化に適応するために,両政党がめざす自治・独立の目標にどのような変化がもたらされたのか,広範な社会経済政策分野の立場に関してどのような変化が見られつつあるのか,イギリスの国政政党との政党間競争のインパクトを視野に入れて検討することを目的にしている。 本研究の最終年度にあたる平成28年度の研究においては,6月23日にEUからの離脱の是非を問う国民投票が実施されたことから,投票日前後の10日間イギリスを訪問して,EU離脱派と残留派の関係者に聞き取り調査を行ったのに加えて,ケンブリッジ大学やロンドン大学の政治学を中心とする社会科学研究者から,EU離脱問題とスコットランドおよびウェールズのナショナリズムとの関係についての意見を傾聴する機会を持った。また,本研究で得られた知見の一部を,国内の学会や研究会,そして,一般向けの後援会などで発表する機会を持った。 本研究の研究成果の内容については,後日提出する研究成果報告書において詳しく説明することになるが,その一部については,平成28年度中に単著の研究書『スコットランドの選択:多層ガヴァナンスと政党政治』(木鐸社)として出版した。 なお,本研究では研究開始当初に挙げた課題について相当程度の成果を上げることができたとすることができるが,残された課題も少なくない。ナショナリズム政党の多層ガヴァナンスへの適応という研究課題について,今後さらに研究を深めていかなければならないと考えている。
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