2016年5月にエチオピアに出張し、イタリア占領支配とその都市計画、住民支配と抵抗などを、国立博物館といくつかの都市を訪れ調査した。8~9月にイタリア国立図書館や公文書館等でファシズムのエチオピア支配時代の資料を調査した。ファシスト指導者のアフリカ・アラブ観に関する分文献を収集し、分析を進めた。これらの資料と文献の検討を通じて、第1に、ファシズム指導者のアフリカ観は「文明と未開」の対立という植民地時代的な性格のものであったこと、第2に、アラブ地域に関しては英仏との対抗と英仏支配の攪乱の道具として利用しようという狙いが主要であったと考えられることが分かった。その点から、北部同盟のアフリカ観はこの第1の面と連続していると見ることができる。その反イスラムの歴史的な連続性は確認できなかった。 これらの研究成果の一部が、高橋進「南欧におけるポピュリズムの展開とデモクラシーの危機」(高橋進他編『ポピュリズムのグローバル化を問う』(法律文化社、2017年)である。 3年間の研究を通じて、イタリアのアジア・アフリカ認識とレイシズム及び現代の新しいレイシズムとの関係について以下のことが明らかになった。第1に「未開と文明」という2項対立図式の連続しての存在、第2にファシズム時代にイタリアでは「帝国臣民」概念が形成されず、19世紀的な国民観念のままであったこと、第3にそれが現在の大量の難民・移民流入により「移民受け入れ国家」となっても、新たな「国民概念」を再構成できず、混乱状況にある一つの要因であること、第4にファシズムの反ユダヤ主義は「政策」レベルにとどまり、人種主義として指導者や国民の間に定着しなかったことなどである。
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