研究課題/領域番号 |
26380198
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研究機関 | 阪南大学 |
研究代表者 |
賀川 真理 阪南大学, 国際コミュニケーション学部, 教授 (10299018)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | クリスタル・シティ抑留所 / 日系ペルー人 / 日系ラテンアメリカ人 / 日系アメリカ人 / ブラック・リスト / 日米交換船 / 司法省(Dept. of Justice) / モチヅキ裁判 |
研究実績の概要 |
2016年度には、第1に同年5月25日より外務省外交史料館において、「戦時捕虜交換に関する一件」ファイルを中心に閲覧し、第2に同年8月28日より9月4日まで、アメリカのカリフォルニア州ロサンジェルスにおいて、第二次世界大戦中にテキサス州のクリスタル・シティ抑留所に収容されたヤエ・アイハラさんと、同じく収容されたのち、日本に渡り、再渡米し、補償交渉に加わったカルメン・モチヅキさんにインタビューを行い、第3に同年9月18日に、インタビューの成果と、アメリカ国立公文書館で収集した史料などを基にして、日本アメリカ史学会(明治大学)の自由論題において、「第二次世界大戦下における日系ラテンアメリカ人の強制送還に関する一考察―なぜ彼らがアメリカに送還されなければならなかったのか」と題して学会発表を行った。 学会報告では、アメリカによる戦時下政策について、真珠湾攻撃から日本との「人質交換プログラム」に至る経緯を時系列的に紹介し、ラテンアメリカ諸国の諸事情、すなわち安全保障上の理由や対米経済的・軍事的協力関係により、ペルーなど13か国がアメリカの要請で日系人の逮捕と強制連行を行った事例を分析した。 同学会の報告書には、「賀川氏は、(中略)実際に送還を体験した人々へのインタビュー史料を効果的に用いながら生き生きと描き出し」、「ラテンアメリカ諸国にとって、日系移民政策は対米関係を形成する一つのカードとして重要な要素であったという状況が明らかとなった」と紹介された。 なお上記インタビューは、『阪南論集・社会科学編』第52巻第2号(2016年12月原稿提出、2017年3月刊行)の研究ノートに「テキサス州クリスタル・シティ抑留所をあとにして71年―カルメン・モチヅキさんとヤエ・アイハラさんのあゆみ(前編)」(169-185ページ)と題して刊行し、紙数の都合で掲載できなかった後編を次号に投稿予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2016年度に、戦後補償を研究する上での前提となる、主としてクリスタル・シティ抑留所に収容された方々にインタビューをし、ラテンアメリカ本国からアメリカに連行されるまでの事情や、抑留所での生活実態、戦争が終わり、抑留所を出てから、本国や戦前住んでいたところに戻れない苦悩、戦後なお、アメリカで生活する上で日系人に向けられた差別などについて、被収容者から生の声を聞かせていただく機会を得られた。そして、あえてほぼインタビューをしたままの内容を、研究ノートとして刊行することができた。 また、日本側の史料の確認(残念ながら、戦争により大半が喪失していることが判明)と、アメリカによる戦前から戦中にかけての対ラテンアメリカ政策の一端が解明できたこと、戦後補償について、アメリカの公聴会などで中心的な役割を果たしておられるグレイス・シミズさんと連絡をとり、2017年度から本格的に交渉の実態を分析する足掛かりができたと考えることなどが理由である。
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今後の研究の推進方策 |
2017年度には、第1に、第二次世界大戦中、アメリカに最も多くの日系人を送り出すことに加担したペルー政府の実態を明らかにするため、これまでアメリカ大使館付のエマーソン書記官による回顧録が史料の拠り所にされていたが、ペルーの国立公文書館に行き、手掛かりを発見したいと考えている。ただし、実際に行われたことは機密事項に当たるものなので、どれほどの史料が発見できるかは現在、インターネットで調べ得るところからは確信が持てていない。その場合でも、首都リマの日系人コミュニティーに行き、アメリカに連行されて、ペルーに戻ることが許された方々へのインタビューを行いたい。 第2に、アメリカにおける日系ラテンアメリカ人への戦後補償の実態を、できるだけ詳細に明らかにしたい。すなわち、一般的には1988年の日系アメリカ人に対する戦後補償には、日系ラテンアメリカ人は一切補償対象として加われなかったかのような文献やら新聞・ニューズレターのような記事や文章が流布しているが、カルメン・モチヅキさんの話によれば、この時、戦後引き続きアメリカに残った日系ラテンアメリカ人については、戦後補償を受けられたという。このことを含め、まずはキャンペーン・フォア・ジャスティスのグレイス・シミズさんにお会いし、実態と裁判の流れを確認したうえで、現在、どのような活動が進行しているのかについて、最新の情報を得たいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究開始年度より昨年度までは、家庭の事情で長期間の海外での調査及び史料収集が難しかったため、当初計画より使用額が少なかった。実際のところ、研究を進めるうえでの史料収集やインタビューは、アメリカだけにとどめ、期間も1週間から10日程度しか費やせなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、研究テーマにおいて重要な役割を果たすと思われるペルーに行き、国立公文書館での資料閲覧や日系ペルー人のコミュニティを訪問し、当時のペルー政府の動向や、実際にアメリカに強制連行された方々からの話などをインタビューしたいと考えている。 さらに、アメリカにおける日系ラテンアメリカ人に対する本格的な補償交渉の中心人物としての役割を担われているグレイス・シミズさんと連絡を取り、できればインタビューに応じていただき、まずはこちらでたどっている現在までの経緯を確認し、シミズさんやCampaign for Justiceといった組織の役割や現状を尋ねたいと考えている。
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