本研究は、国際労働移動を規律する近年の政策・法制度の展開と、その国際関係への影響についての実証分析を目的とするものである。主たる事例は、現代のベトナムにおける自国労働者の送り出し政策と、そのベトナムからの受け入れが近年顕著に増加している日本である。海外からの労働者の受け入れは、受入国側の政府が専権的にその内容を決定できる政策事項と考えられてきた。しかし新世紀を迎え、ベトナムを含む送出国政府が、自国労働者のホスト国における受け入れ条件や法的地位という案件を国際交渉の場に持ち込んでいる。本研究は、こうした動向が生じた背景と作用を実証的に明らかにし、国際関係の新しい一側面として理解する試みである。 本研究は、送出国側の動向への着目しつつ、受入国の状況やその送出国との関係性にも考察を加えている。受入国の状況については、最終年度の研究成果として、共著『人の国際移動と現代日本の法』(日本評論社)に論文を寄稿したほか、『大原社会問題研究所雑誌』(700号)に論文を掲載している。また、受入国と送出国の関係については、『日本政策金融公庫論集』(34号)に論文を掲載している。本研究の遂行の結果、ベトナムからの労働者の送り出しは、動態的なアジアの政治経済を理解するうえで不可欠な一側面であることが示された。本研究で扱うベトナムと日本は、必ずしも特異な事例ではなく、アジア地域に限っても複数の国家間関係のなかで観察されている。こうした共時性ゆえに、本研究の成果は将来的に、国際比較を視野に入れた学術研究へと発展させうるものである。
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