研究課題/領域番号 |
26380204
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
草野 大希 埼玉大学, 人文社会科学研究科, 准教授 (90455999)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 保護する責任 / 人道的介入 |
研究実績の概要 |
グローバル・ガバナンス時代の介入(保護する責任:R2P)に大きく関連するシリア人道危機に対する国際社会の対応を検討した。 21世紀に入りR2Pという新たな規範を創出した国際社会は、政府軍による市民虐殺が懸念されたリビアに対してはR2Pの下で軍事介入を実施したが、同時期に進行したシリアの人道危機に対しては、その「責任」を果たしたとは言い難い。研究の問いは、なぜ国際社会はシリアに対してR2Pを果たそうとしなかったのかである。本研究は、国際社会における最も有力な介入主体としての米国(オバマ政権)の立場に焦点を当て、この問いに答えた。 先行研究が強調する「不介入」要因は、内向き志向の米世論やシリアの地政学的・戦略的条件に起因する介入のコストやリスクの高さである。これに対して本研究は、シリア内戦におけるR2P「規範」の「逆機能(dysfunction)」に着目した。すなわち、シリア内戦においてはR2P規範が米国の軍事介入を「促進」ではなく「抑制」する方向に働き、保護されるべき多くの人々が保護されない状況がもたらされた可能性を検討した。 結果的に、(1)国連安保理の許可を発動要件としたR2P規範の弊害、(2)R2P規範の「濫用」による規範の正当性低下と、それによる介入阻止効果、(3)R2P規範がもたらす「モラル・ハザード(MH)」 による内戦激化と介入の困難性の高まり、という形で、R2P規範が「不介入」を助長したことを明らかにした。 規範が国家の行動(介入)の動機となる点を強調してきた従来のコンストラクティビズム研究とは異なり、規範が、意図されざる結果として、それが予定する行動(結果)とは逆の行動(結果)を導いてしまう「逆機能」に着目する本研究は、規範研究に新たな理論的視座をもたらすものと同時に、国際的に正当な介入を実施する際に直面する大きな障害の所在を明らかにするものでもある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
・当初の研究計画において本年度に実施すべき「21世紀の介入事例」についての考察には一定の進歩が見られたが、以前からの積み残し課題となっている「19世紀ウィーン体制下の欧州における介入事例」および「冷戦時代の米ソ両陣営内で行われた介入事例」につ いては、十分な研究成果を出すことはできなかった。 ・その主な理由は、学務・教務(とりわけ前者)の多忙により研究に十分な時間が割けなかったことに加え、これらの事例については、すでに研究の蓄積がある歴史研究との差異化、新たな解釈・視点の提示について課題があり、成果が出にくい状況にある。
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今後の研究の推進方策 |
・平成30年度は研究計画の最終年度であるが、・適切な時間管理・配分に努め、研究の進捗を図りたい ・と同時に、当初の研究計画を軌道修正し、「19世紀ウィーン体制下の欧州における介入事例」にまたはウィルソンの介入主義に焦点をあてた研究を推進する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
・次年度使用額が生じた主な理由は、計画書において想定していたような研究時間を確保することができなかったことに伴う研究費の未執行である。 ・本年度の使用計画としては、主として。本年度の研究内容に関係する資料収集の収集、研究成果公表に関わる使用(学会発表に伴う旅費や研究上の助言に関する謝金)を考えている。
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