平成28年度には、これまでの調査で明らかとなった新たな問題を掘り下げることができた。具体的には、「国籍の安全保障化」という現象である。一部の自由民主体制諸国では自国領域内でのテロの顕在化を「新時代の脅威」と位置づけるようになった。これに対抗する措置の一つが、脅威となるかもしれない自国民の国籍を剥奪し、テロを予防する政策である。本年度発表の論文や学会報告を通じ、自国民の国籍を剥奪する権限やそれに準ずる権限が、対テロ政策の一環として強化されつつあることを説明した。そこで着目したのが、「安全保障化」のアプローチであった。これにより、一部の国民が非対称的性格を帯びた新時代の脅威と認識され、脅威対抗措置としての国籍剥奪が政治的に選択されていく過程を明らかにした。加えて、構成されてきた一定の脅威認識や対抗措置について、これを批判的に問う見解にも注目した。 また、平成28年度は本研究の最終年度であったので、期間の後半は3年間の研究成果の取りまとめに注力した。平成29年2月に実施した研究成果報告会では、まず、歴史的展開に着目し、難民レジームにおける無国籍の地位の変化について説明した。これを踏まえ、調査対象とした欧州諸国(英国、ハンガリー、ラトビアなど)を例に、無国籍(者)への国際的対応(保護、防止、削減)の現状とその背景について、主に国際レジームの観点から検討し報告した。さらに、難民レジームにおける無国籍に関する営みが、グローバル・ノース/サウスの分化を促進する可能性について論じた。
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