研究課題/領域番号 |
26380218
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研究機関 | 明治学院大学 |
研究代表者 |
浪岡 新太郎 明治学院大学, 国際学部, 准教授 (40398912)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | フランス / イスラーム / ムスリム / シティズンシップ / 排除 / 欧州 |
研究実績の概要 |
本研究では、以下のことを明らかにする。シティズンシップを認められる者が前提とされる市民アイデンティティの観点から、どのようなムスリムアイデンティティがスティグマ化され、そのことによって実際にどのように移民出身ムスリム国民がシティズンシップの行使から排除されているのかを、政策分野ごとに、先行研究の文献検討、基礎調査資料の取得及び検討、さらに海外現地調査における聞き取りによって具体的に明らかにする。具体的には、地域的にはパリ、リヨン、マルセイユを取り上げ、政策分野としては(ア)政治参加を、(イ)教育(ウ)宗教実践、(エ)雇用を取り上げ、並行して、特にムスリムアイデンティティを市民アイデンティティとして包摂するような移民を巡るシティズンシップ論についての先行研究を文献調査によって行い、調査の知見を理論的に位置づける。 論文について、今年度は舩田クラーセンさやか准教授(東京外国語大学)と共同で、『平和研究』42号(特集「平和の主体論」)を編集した。個人としては、「平和の主体になること」(pp1-7)を執筆し、構造的直接的暴力の中での変革の主体について整理した。また、掲載論文の選定、学会誌の構成を「平和の主体論」という観点から行った。 報告について、今年度は今後の研究の進展を可能にするための討論会でのコメンテーター、学会での報告を行った。7月12日EUIJ津田塾大学でのシンポジウム「シティズンシップモデルの収斂か」に於いてコメンテーターを務めた。 9月6日の第32回フランス教育学会(於東洋大学)においては招聘で、「イスラームと教育:リヨンAl Kindiのイスラームと教育」というタイトルで基調講演を行った。 また、11月30日には「庶民階層における教育の大衆化:日仏教育セミナー(大阪大学・日仏教育学会共催)」に於いてコメンテーターを務めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は研究初年度であるために、26年度前半は先行研究の検討、調査対象自治体についての基礎調査および調査協力依頼を行う。政治参加を第一の対象とするが、調査の準備によっては最も整った課題から取り組みたい。この点に於いて、今年度は政治を特に重点的に対象とすることになった。また、当初の「移民出身ムスリムの包摂と排除を巡るシティズンシップのアイデンティティ論について、学会報告を行い、政治参加について第一の論文を作成する」という点については成功している。具体的には以下のことを達成できた。
【先行研究の検討】特に2000年代以降、政治参加においても左右を問わず、「多様性の促進」を念頭に、選挙のたびに比例代表リストにムスリムが挙げられている。ただし、一方ではムスリム関連の争点を政党は肯定的に引き受け、かれらの票の獲得を望むが、他方でムスリムアイデンティティはスティグマ化されているために、ムスリムに親和性が強すぎると判断されるとマジョリティの市民の票を失うことになる。こうして選出された移民出身ムスリムの地方議員を巡っては、過小代表とエスニック的役割分担が常に問題化している。これらの地方与党議員が政治的代表としてどのように市民アイデンティティの中でムスリムアイデンティティを位置づけることを求められ、実際に位置づけているのかを明らかにする。まずは先行研究の検討を通じて、地域ごとのムスリム議員の割合の多さ、扱う問題の種類、政党の違いの類型化を試みた。 【海外調査】先行文献研究を完成するためにジェセールらへの聞き取りを行い、その上で、2014年3月地方議会選挙を経た各地方自治体地方議会の与党の主要な議員への聞き取り調査はできなかった。しかし、選挙の際の公約からムスリムアイデンティティの扱いを分析し、議事録を収集し、ムスリムの議員が具体的に扱うテーマやその与党内での位置づけを明らかにできた。
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今後の研究の推進方策 |
【先行研究の検討】共和国モデル型シティズンシップは、出自を問わないが、公教育を通じた社会化を重視することで市民としての「社会的結合」を維持しようとする。したがって、公教育はまさに先鋭的にムスリムアイデンティティとの緊張関係が現れる場である。公教育ではエスニックブラインドな教育が行われるはずが、実際には生徒のエスニシティに応じた進路の振り分けや教員の対応の変化がある。しかしながら、ムスリムアイデンティティに関しては公教育との対立関係が強調されている。イスラームのスカーフ着用を理由に公教育を受ける権利を奪われる「スカーフ事件」はその典型である。地域ごとの教育委員会がどのように市民アイデンティティの中でムスリムアイデンティティを位置づけることを求めているのか、また生徒はそれに対してどのように実際に位置づけているのかをスカーフ事件を中心に明らかにする。生徒のムスリムアイデンティティについての先行研究を検討し、地域による違い、初等教育と中等教育における違いを類型化する。 【海外調査】先行文献研究を完成し、その上で、各地方自治体でのスカーフ事件を巡るムスリム団体の対応を「ムスリム差別に対抗する団体CCIF」で訪問調査する。そして、スカーフ事件の結果成立し始めた,国民教育省認可のムスリム私立学校の取り組みに着いて調査する。それぞれの学校設立のきっかけとなった事件を取り上げ、その事件においてどのようにムスリムアイデンティティが共和国アイデンティティと対立するとされ、どのようなプロセスを経て、生徒が排除されるに至ったのかを明らかにする。その上で、ムスリム団体が、どのように国民教育省認可の私立学校としてムスリムアイデンティティを共和国モデルと結びつけたのかを、資料、聞き取りから明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度は、予想よりも一回海外調査を行うことができなかった。学務や講義の負担が予想を超えて大きかったこと、そして、日本平和学会の事務局長を引き受けることになったことが理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度は昨年度の分を含めて、予定よりも長期の海外調査を予定している。
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