本研究は、欧州における移民出身ムスリムを排除しない包摂型シティズンシップの研究を目的とした。包摂型リベラルシティズンシップが定着しつつある欧州における、移民出身ムスリム国民を排除しない包摂型シティズンシップの構築という課題に取り組む。移民出身ムスリムは、 国籍如何に関わらず、そのムスリムアイデンティティがシティズンシップ行使において前提とさ れるアイデンティティ(市民アイデンティティ)と矛盾することを警戒され、公教育を受ける権 利など、その行使において排除されることが多い。具体的には、最多の移民出身ムスリムが定住 し、排除が顕著なフランスを事例に、ムスリムアイデンティティを理由とした包摂・排除の実態 を、(ア)政治参加、(イ)教育、(ウ)宗教実践、(エ)雇用の政策分野の地域ごとに調査によっ て明らかにした。また、その知見を、移民を巡るシティズンシップ研究の内に位置づける。どのようなムスリムアイデンティティが市民アイデンティティと対立すると判断され、どのように諸権利の行使から排除されるのかを明らかにするために、包摂・社会的紐帯の回復において 重要な(ア)政治参加、(イ)教育、(ウ)宗教実践、(エ)雇用の分野において移民出身ムスリム の包摂と排除の実態を、彼らの集住する3大都市であり、特別の行政区となっているパリ、リヨ ン、マルセイユを対象に明らかにした。結果的に、言説レベルでは共和国対イスラームという一面的な対立が強調されるものの、実際には分野ごと、地域ごとに排除の形態が異なることを明らかにした。
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