研究課題/領域番号 |
26380219
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
有馬 哲夫 早稲田大学, 社会科学総合学術院, 教授 (10168023)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ソフトパワー / メディア / アメリカ / 広報外交 / 広告 / 民間企業 / USIA / 情報機関 |
研究実績の概要 |
戦後のアメリカ合衆国のソフトパワー政策に対するメディア企業、特に映画会社の関与を調査しようと、占領期に遡り、GHQのプロパガンダ映画の発注先とその後の関係を調べた。このため渡米し、スタンフォード大学フーヴァー研究所で占領期のCIE(民間情報教育局)と映画の関係を知るためにボナー・フェラーズ文書などを読み、必要な部分を写真にとった。また、カンザス・シティーのハリー・S・トルーマン大統領図書館でCIE文書、PSB(心理戦委員会)文書、USIA文書(アメリカ合衆国情報局)、トルーマン政権下で日本の戦後政策にかかわった重要人物たち(たとえば、ボナー・フェラーズやCIE初代局長ケン・ダイクなど)の口述記録を文書化したものを読み、収集した。メリーランド州のアメリカ国立第2公文書館では、GHQのCIE文書で占領軍のプロパガンダ目的の映画製作に関する文書を読み、収集した。 その結果、アメリカ漫画協会やアメリカ広告協会などが、占領中だけでなく、占領後も日本の企業と深く関連していることがわかった。日本の広告産業は、戦後飛躍的に事業を拡大していき、新聞、雑誌、放送などに深い影響を与えるのでこの知見は大きな意味がある。 しかしながら、映画会社や放送会社については資料はあまりなかった。アメリカ合衆国の公文書の公開規則では、現存する企業や個人の現在の活動に影響を与えるものは公開しないとなっているので、これらに該当するものは公開されていなかった。むしろ、公文書ではなく、個々の企業の社史や個人の出版した書籍などが、彼らとアメリカ政府の政策の関係に関する情報が得られるように思えてきた。ウォルト・ディズニーの場合も、「アトムズ・フォー・ピース」政策の広報のために「わが友アトム」を作ったことは、公文書には一切でてこないが、ディズニーについて書かれた書籍はむしろそのことをアピールしていた。こういったことが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
アメリカ合衆国のソフトパワー政策へのアメリカ企業の参画の実態を調べようとしているが、アメリカの公文書や公的記録は、現存する民間企業で、現在の企業活動に影響を与えると考えられるものは、原則公開しないというルールがあるので、20年はもとより、70年以上たった現在でも、すべてが公開されているものではなく、公開されているものも、協会や業界団体が公表しているもので、ワーナーやユニヴァーサルやウォルト・ディズニーなどの大手映画会社、NBCやCBSやABCといったテレビ放送網など個々の企業のソフトパワー政策への参画を示すものではない。 このような個々のメディア企業のアメリカ合衆国のソフトパワー政策への参画を明らかにするためには、公文書や公的記録だけでなく、その企業の創立者の伝記や社史や回想録などを読む必要がある。たとえばRCAとNBCの創設者であるデイヴィッド・サーノフはアメリカ合衆国陸軍の通信隊(SignalCorp)に属して大佐になっているが、彼の企業と陸軍とがどんな関係にあったのかについては、公的記録にはあまりない。これはRCA博物館所蔵の彼の記事やそこに所蔵されている個人的記録などを読むしかない。また、占領中CIEの初代局長だったケン・ダイクはCBSの副社長になっているが、彼が政府や軍とどんな関係にあったのかは、公的記録ではなく、彼がCBSに残した文書や社内誌などからわかるものと思われる。 これら企業の創立者や重役は自身はすでに故人となっている場合が多いので、近親者や周辺にいた人々へのインタヴューを行って、オーラルヒストリー的聞き取り調査によって人を介した情報収集が必要だという感触を強めている。これは将来の課題だと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後もこれまで通り公文書館や大統領図書館などで資料収集するが、現存する企業、生存する個人の利害にかかわる文書は公開されていないので、これに加えて、個々のメディア企業の創立者や重役が個人的に書いた書籍、企業の博物館や資料館や大学に寄贈されている個人的記録(日記、手紙、その他の文書)にもできるだけあたりたい。これらの書籍や記録をもとに、個人情報にかかわることなので困難を伴うが、彼らの周囲の人間や親族なのどの消息をできるだけ調べ、できれば2、3人のケースのケーススタディであっても、オーラル・ヒストリー的聞き取り調査が必要だと思っている。ただし、これは研究の枠組みの変更になり、アメリカでの滞在日数も増えて、今年の予算額の範囲を超えると思われるので、できたとしても今回は予備調査的なもにとどめ、本格的な聞き取り調査は、今後の課題としたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
原油の国際的取引価格が下がり、航空費のサーチャージ分が安くなり、航空券が安く購入できたため。
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次年度使用額の使用計画 |
今年は、アメリカでの滞在日数を増やして、次年度使用額と今年度使用額をすべて使い切る予定である。
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