研究課題/領域番号 |
26380222
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研究機関 | 愛知学院大学 |
研究代表者 |
杉山 知子 愛知学院大学, 総合政策学部, 准教授 (90349324)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 移行期正義 / 集合的記憶 / ラテンアメリカ / チリ / アルゼンチン / 左派政権 / ポスト移行期正義 / 民主化 |
研究実績の概要 |
本年度は、これまでの研究の一部について学会研究部会における発表、2つの図書での章の執筆をするなどした。移行期正義の理論・概念研究については、研究会発表および参加者からのフィードバックを通じて、移行期正義研究第一世代、第二世代に分け、第一世代が権威主義体制から民主化移行期における過去の人権侵害に対する正義の追求に焦点を当てているのに対し、第二世代は、平和構築における正義の追求、ポスト移行期の正義の追求と分けることが有益であるとの知見を得た。また、平和構築における正義の追求の場合、国際機関の役割や和解が重視されていると思われる。 事例研究については、平成27年度は、チリ、アルゼンチン、パラグアイにおける軍政期の記憶に関連する施設視察をした。チリでは、国立海事博物館前には1973年9月11日のクーデターを主導した海軍のメリノ将軍の像があり、館内にはメリノ将軍の偉業をたたえる特別室、クーデター計画を示唆するメモが展示されており、アジェンデ政権期及びクーデターに対する評価が必ずしも一様でないことが示唆的であった。アルゼンチンでは人権侵害が行われた海軍技術工科学校跡地であるex-ESMAが人権啓発のための博物館・公共空間となり、人権侵害を訴えてきたNGOが活動の場としても利用している。今回の視察では、そのex-ESMA敷地内にマルビナス諸島の主権を主張する博物館が設立され、軍政期の人権侵害を記憶する公共空間構築に新たな動きが見られるとの知見を得た。これはナショナリズムの言説を強調する左派のフェルナンデス政権の影響もあると思われる。パラグアイについては、かつての独裁政権下で人権侵害が行われた場所が記憶博物館となり展示などにより人権侵害の過去を後世に伝えていこうというメッセージはくみ取れるが、アルゼンチンやチリに比べると人権侵害を記憶する諸活動がそれほど活発でないとの印象を受けた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度には、チリの事例として、バチェレ政権に焦点をあて、学会研究部会において研究発表を行い、また、平成26年度に行った研究発表及び発表時のコメントを踏まえ、図書の一部に発表した。尚、これまでの研究状況より、理論面については、移行期正義研究の先行研究の整理・類型化・概念整理として第一世代、第二世代と分けることが有益であるとの知見が得られた。事例については、アルゼンチンでは、2001年から2002年にかけて未曾有の経済危機とそれに伴う不安定な政治状況に直面しながらも、民主主義が破綻することはなく、左派政権が誕生した。左派のキルチネル政権では、軍事政権下での人権侵害の記憶形成が進められることになった。記憶形成の現状についてはex-ESMAを視察し現状把握に努めた。このような点から、おおむね順調に研究課題に取り組んでいると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
今後もラテンアメリカ諸国(特にアルゼンチン、チリを中心として)国・政府レベルでの正義と真実追求の編成・発展・多様化、ローカルな記憶形成についての考察を進めていく。理論面では、第一世代、第二世代と分けること、移行期正義、ポスト移行期正義、平和構築を目指す移行期正義と分類することについて検討していきたい。 事例研究については、今後もアルゼンチン、チリ、その他ラテンアメリカ諸国の事例を中心とし、時間の経過・民主化の定着を経て、ポスト移行期正義期における正義と真実の追求・記憶形成の変遷・左派政権の影響について考察していきたい。特に、アルゼンチンでは軍事政権下に人権侵害が行われた海軍工科学校施設(ESMA)は現在、記憶の公共空間・博物館となり、その敷地内にはアルゼンチンが主権を主張するマルビナス諸島の歴史に関するマルビナス博物館が開館した。このような現状を踏まえ、移行期正義・ポスト移行期正義の過程において過去の記憶の変遷を考察する。尚、比較的な視座を加味する観点から南アフリカの状況についても考察する予定でいる。現地視察及び二次資料を考察する予定でいるが、日程調整の都合上、二次資料を重点的に検討するという対応も考えられる。
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