1997年のアジア通貨危機以降、日本と韓国の通商政策の重点は、WTOを中心とした「多角主義(Global Multilateralism)」から、「二国間FTA (Bilateralism)」へとシフトした。両国が、それまで否定的であったFTAを通商外交の重要な柱にしたことは、画期的な政策転換であった。さらに近年、両国は、「地域的な多国間主義 (Regional Multilateralism)」を本格的に進めようとする姿勢を見せている。例えば、日本の民主党政権は、従来の二国間重視の態度から一転し、環太平洋経済連携協定(TPP: Trans-Pacific Partnership)に参加表明している。一方、韓国は、中国とのFTA共同研究を開始し、ASEAN+3のFTAを積極的に推進している。すなわち、日本と韓国の通商政策は、二国間FTAを中心としたものから、多国間FTAの実現をも目指すダブルレイヤー(二層式)通商政策へとシフトする兆しが見られる。 TPPやASEAN+3FTAに関しては、多くの先行研究がある。しかし、その多くは経済的アプローチによる説明である。他方、政治的アプローチによる研究のほとんどは、国際要因の研究であり、国内要因から分析した研究は十分になされているとはいえない。特に、比較分析はきわめて少ない。このため、日本と韓国の両国の視点を包括的に組み入れ比較する本研究は、重要な試みである。 日本と韓国の通商政策は、従来二国間FTAに重点を置いていたが、現在、本格的に「地域的な多国間主義を進めようとする兆しが見られる。また、両国は多くの共通点・類似点を持つにもかかわらず、政策シフトの地理的焦点の違いが見られる。本研究は、これらの現象の分析を通じて、FTAをめぐる日韓の政策過程の共通点と相違点を明らかにする。
|