本研究は、江戸時代最後の11年間に、徳川幕府が欧米外交官を相手とする外交儀礼の様式を整えた経過を追ったものである。そこからは、日本が明治維新以前に、国家間の「対等」を根本とする近代外交の本質を採り入れ、同時に、朝鮮通信使の迎接を中心としたアジア域内国際関係と儀礼の伝統に立脚して、それを主体的に咀嚼した過程が浮き彫りとなった。 本研究の成果は第一に、これまで外交史研究の角度からも、儀礼研究の角度からも見落とされてきた、この「幕末外交儀礼」の詳細とその歴史的意義を明らかにしたことにある。最終年度には、ここまでの研究を総合する単著『幕末外交儀礼の研究 ――欧米外交官たちの将軍拝謁』思文閣出版(前年度実施状況報告書に記載)を刊行するとともに、国内外(東京、京都、バンコク、ロンドン、リスボン)の学会、セミナーで成果を発表、またはその準備を行った。 ここまでの成果は、さらに今後の展開として、日本に関して詳細を探求してきた近代外交の端緒を、近隣アジア諸国の同時代の様相と比較し、また互いの連動を分析することにより、19世紀における西洋と非西洋の遭遇のあり方、ひいては「世界史の書き方」を大きく捉え直していく契機を孕んだものである。最終年度には、すでにその展望の具体化に着手し、近隣諸国を視野に入れた史料収集を開始した。また、そうした広範な比較研究はいずれ国際共同研究の形をとることが不可欠であり、学会等においてはそのことを視野に入れたネットワークづくりをとくに意識して臨んだ。 今後1~2年度にわたってそのような準備を積んだのち、次の段階ではこの成果を、「(日本の)幕末外交儀礼」研究から「19世紀(東)アジアにおける外交儀礼」の研究へと進展させたいと考えている。
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