マッチング理論のマーケットデザインへの応用は多大な成功を収めてきたが、既存のそれはほとんど2部マッチングにもとづく。(2部の片側のみに選好を持つものを1部マッチングと称することがあるがこれも2部マッチングの一種である。)本研究の目的は、マーケットデザインの適用範囲を非2部マッチングに拡大するための理論的基礎の確立である。当初の研究計画は3つの段階からなっていた:(A)2部マッチングにおける既存の結果を再検討することでその根本的な数学的構造を明らかにする。(B)前段階の結果を手がかりにルームメイト問題(非2部マッチングの代表例)の数学的構造を明らかにする。(C)前2段階の結果をもとに少なくともルームメイト問題において機能しかつ今後の応用のひな形となるようなメカニズムを設計する。以上。(A)が予備的研究で、(B)と(C)が本体と位置づけられる。しかし研究をすすめるうち(A)が予想以上に奥が深く重要であることがわかり、平成28年度辺りから計画を再調整し、これまで研究は専ら(A)について行ってきた。 過年度より諸般の事情により研究の進展は思わしくなく、最終年度である平成30年度においても同様であった。前年度からの一貫した根本的関心は安定マッチングとワルラス均衡との類似性、共通性である。当該年度は、これを究明するための予備的結果として、契約なしのマッチングモデルでの安定マッチングの存在の既存の証明を契約付きのモデルに一般化することができた。これを論文として大学紀要に報告した。最終年度にもかかわらず決定的な結果を得ることができず、予備的な結果を追加しただけに終わったことは残念である。しかし一方で今後の研究への礎が築かれたことが重要である。
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