消費者が2人の場合に、最適かつ耐戦略的な社会選択関数は独裁(ある一人の消費者が常にすべてを得る)となることは、先行研究で広く知られていたが、多人数経済においても同様の結果が成り立つかどうかは長らく未解明であった。それを明らかにすることが本研究の目的であり、さらに、その分析に際して「偏微分方程式を用いた分析手法」を確立するのが本研究の要点であった。 具体的には以下の2つの予想を証明することが目標であった。多人数経済でも、(1)最適かつ耐戦略的な社会的選択関数は独裁的である。しかしながら、(2)消費者の選好をコブ・ダグラス型に限定するならば(少なくとも局所的に)、最適かつ耐戦略的な社会的選択関数で非独裁的なものが存在する。さらに、(2)の分析においては、偏微分方程式を用いて問題の定式化を行い証明することを目指していた。 本年度の研究により、(1)については、解決を見た。過年度の研究で、財の数が消費者の数を上回る場合において、最適かつ耐戦略的な社会的選択関数は独裁的であることを明らかにしたが、本年度の研究で、そのような財と消費者の数の仮定なしに、結果を証明した。つまり、多人数経済においても、最適かつ耐戦略的な社会的選択関数は独裁的であり、財配分において最適性と耐戦略性は両立しがたい性質であることが明らかになった。これにより、Hurwicz(1972)やZhou(1991)などが明らかにしてきた、2人経済における社会的選択関数の特徴付けの問題が、多人数経済においても完全に解決された。 (2)は、さらに、消費者の選好を限定すれば、最適かつ耐戦略的な社会的選択関数で、非独裁的なものが存在するという予想であったが、残念ながら、解決には至っていない。
|