研究課題/領域番号 |
26380256
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
結城 剛志 埼玉大学, 人文社会科学研究科(系), 准教授 (40552823)
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研究分担者 |
泉 正樹 東北学院大学, 経済学部, 准教授 (90517038)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 不換銀行券制度 / 商品貨幣 / 表券貨幣 / 国定貨幣 / 計算貨幣 / 経済原論 / マルクス / アトウッド |
研究実績の概要 |
はじめに研究の目的を確認しよう。1970年代以降の金融市場の激変を目の当たりにして、経済学は既存の理論体系に基づいて種々の現象を説明することが難しくなっている。このことが、「貨幣および信用貨幣とは何か」という研究を社会科学に要請している。これがわれわれの基本認識である。そこで、第1に、独自の貨幣・信用論を展開している各学派の学説ならびに論争状況を整理し、現代の研究状況を見渡す。第2に、論争に示される共時的な関係を歴史的に深める。第3に、ヨコとタテの関係をまとめることで立体的な論争史の理解を提示する。 以上の研究目的・方法にしたがい、平成27年度は以下のように研究を進めた。まず、研究代表者は、これまでケインズ学派に国定貨幣説や管理通貨論の先駆として評価されてきたゲゼル、アトウッドといった不換紙幣論者の学説を取り上げ、不換銀行券、国定貨幣、計算貨幣の論争史を探究した。それによって、アトウッドの計算貨幣論の解釈が、ケインズ学派とマルクス学派の不換紙幣の解釈を分岐させるひとつの節目であることが分かった。そして、研究分担者は、不換銀行券と国定貨幣とを理論的にも現象的にも峻別するために、商品の価値表現様式という貨幣論の最も原理的な問題に立ち返って考察を進めた。価値表現様式を見直すことで、原理的な説明対象を兌換銀行券までに限定して不換銀行券を歴史的な逸脱としてきた従来説の限界を指摘し、流通論の再解釈によって原理論の説明範囲を広げる可能性を示した。それは同時に最終年度に行う研究総括に向けたヨコの関係の考察をなすものである。 今年度に提出した研究成果を以下にまとめる。初年度に実施した学派間の共時的な論争状況を整理した3件の研究発表を共著論文にまとめ『社会科学論集』(埼玉大学)に投稿した。また、研究代表者は3回の研究発表を行い、研究分担者は2回の研究発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度の研究計画では、研究代表者のこれまでの研究「が示唆する貨幣学説を見渡し、金本位制の擁護者であった古典派経済学に対して、当時異端派とされていた表券貨幣論や国定貨幣論などの諸学派がいかなる議論を展開していたのかについて調査し、26年度の研究と関連づけながら論争の淵源を探る」とした。このような研究計画に沿って、タテの考察を深める3件の国内学会報告を実施した。 研究分担者による2件の研究発表は最終年度の研究総括を睨んだものであり、着実に研究を進めてきている。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度の研究計画を着実に進める。 1.「過去2年間の研究成果を総括し確実な成果発表につなげていくために貨幣・信用論研究会を開催する」。研究会の開催スケジュールは28年9月(東北学院大学)、29年2月(埼玉大学)である。研究成果は国内学会で報告し、論文を投稿する。 2.「変動為替相場制と不換銀行券制度に基づく現代の貨幣・金融現象を包摂しうる貨幣・信用貨幣論を探求する現代の論争の整理という26年度の研究成果と、現代の貨幣・信用学説の淵源を探索する中で、商品貨幣、表券貨幣、国定貨幣、信用貨幣、等々と様々な名称によって規定された貨幣学説の内実とそれらの位相を明確化した27年度の研究成果との総合を行う。このような、<現在>から過去への遡及と過去から<現在>への遡上という2様の研究の方向性を接合する作業を通して、貨幣学説の体系的な理解を提示する」。 「現代の論争の整理」と「現代の貨幣・信用学説の淵源の探索」については一貫した方向性をもって研究が進められている。これまでの2年間で計10件の研究発表を実施してきた。最終年度には着想段階・草稿段階にあるものも含めてできるだけ論文のかたちで公刊できるように努力する必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度の学会等の開催場所が首都圏に集中したため旅費の使用額が少なく抑えられた。
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次年度使用額の使用計画 |
経済学史学会、経済理論学会が東北地方で開催されるため旅費として使用する。
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