本研究の目的は、政府による思想善導策の1つであった戦時期の「日本文化講義」に着目し、その全容を解明するとともに経済学者の日本文化講義への関与について考察することにある。日本文化講義は昭和11年度から文部省・教学局が帝国大学・官立大学・直轄諸学校さらには私立大学などにも実施を要請した官製講義であったが、これについては今日まで十分な研究が行われてこなかった。 当年度前半は前年度後半に引き続き私立の大学・専門学校における日本文化講義の実施状況に重点を置いた資料調査を断続的に行った。関西学院大学、関西大学、同志社大学、立命館大学、龍谷大学等の図書館や大学アーカイブズ(各大学に所属する文書館、資料館、大学史作成部署など)で諸資料を探索し、日本文化講義の実施を確認できる文書を閲覧・撮影することにより調査を行った。関西の私立大学・専門学校における実施事例をある程度収集することができたので、これらを基に私立大学・専門学校で戦時期に展開された日本文化講義の考察を行った。研究結果については「戦時期の私立大学における「日本文化講義」の展開―関西の私立大学を中心に―」という論考にまとめ『大阪工業大学紀要』第61巻第1号に発表した。 一方、帝国大学や官立の大学・高等学校・専門学校・実業専門学校・高等師範学校で昭和11~16年度に実施された日本文化講義の全国的な実施状況については前年度までに把握できたので、これをもとに当年度後半は経済学者の日本文化講義に関する動員・関与状況について考察を行うとともに、日本文化講義を担当した経済学者と日本諸学振興委員会経済学会との関係についても簡単な考察を行った。これらの考察により得られた若干の知見については本研究の「研究成果報告書」の4.研究成果(4)(5)にその概要をまとめた。
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