本年度は、第一に、アバディーン啓蒙におけるヒュームとルソーという二人の思想家の評価について調査・研究を行った。2017年8月には、アバディーン大学図書館において、ジェイムズ・ビーティをはじめとするアバディーン哲学協会たちのルソー受容とヒューム批判とを、協会の議事録・書簡・著作などから明らかにした。より具体的には、人間に本来備わったコモンセンスを強調するアバディーンの啓蒙思想家たちにとって、人間本性の善良さを強調するルソーの議論は、その強烈な文明批判にもかかわらず、ヒュームの懐疑主義と対抗する上では有効であった、ということである。第二に、ヒュームとルソーの個人的な諍いに関わったホレイス・ウォルポールが両者をどのように評価していたかということも考察した。ウォルポールは、当初からルソーに対する批判を隠さなかったが、それは彼がフィロゾーフ全体に向けた批判の一部であった。また、表面上は慇懃な付き合いをしていたヒュームに対しても、ウォルポールは無批判ではなかった。要するに、ウォルポールにとって、ルソーもヒュームもフィロゾーフであったのである。ウォルポールは、ヒュームとルソーのスキャンダルに際して、文明の進歩に対して批判的な態度を示していたのだが、それはかえってルソーの文明批判への接近を示すものであった。他方で、ルソーもヒュームの立場も、文明の進歩に対して全面的な礼賛・批判ではなく、ヒュームもルソーも例外的なケースを認めており、ルソーにいたっては社会の進歩が人間の認識能力の完成には必要であるとも述べているのである。この点については、今後もさらに調査・分析が必要である。第三に、前年度からの継続として、ヒュームの『政治論集』がルソーにどのように受容されたのかということを経済思想史系の国際学会誌に投稿中である。
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