本研究の目的は、混合正規回帰モデル(スイッチング回帰モデル)ならびに多変量混合正規モデルにおける、要素数を検定する統計的推測の手法を構築すること、そして、開発した手法の実際的応用可能性を、コンピューター・シミュレーションによって検証することである。
平成26年度ー平成27年度は、混合正規回帰モデルにおける要素数に関する新しい統計的推測手法(modified EM test)を構築し、その漸近分布を導出した。さらに、コンピューター・シミュレーションを行い、modified EM testが有限標本下でも良好な統計的性質を持つことを確認した。研究成果はKasahara and Shimotsu (2015)として学術誌に掲載された。現在、modified EM testを実証研究者が簡単に利用できるように、フリー統計ソフトRを用いたパッケージを構築中である。
平成28年度は、多変量混合正規モデルの要素数を検定するEM testを構築し、その漸近分布を導出した。混合正規モデルは、その対数尤度関数が複雑な形状をしているため、通常は、Kasahara and Shimotsu (2015)で示された8次のテイラー展開を必要とする。しかしながら、多変量混合正規モデルは、パラメーター数が多いため、8次のテイラー展開を行うのは現実的ではない。本研究では、混合正規モデルの対数尤度関数を4次のテイラー展開のみで分析を可能にする手法を確立し、それに基づきEM testの漸近分布を導出した。さらに、コンピュータ・シミュレーションを行い、EM testが有限標本下でも良好な統計的性質を持つことを確認した。研究成果は、東京大学のディスカッション・ペーパーとして刊行された。
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