本研究の目的は、世界的規模でみた所得分布の形状及び世界的所得不平等度と貧困度の程度とその推移を最新のデータに依拠して明らかにすることである。計測で用いた主なデータとしては、各国の一人当たり所得と人口については、国際統計委員会の勧告に基づいて実施された国際比較プログラム(ICP)の最新成果である2011年ラウンド(2014年4月29日発表)の推計結果を反映する世界銀行の世界開発指標を採用した。同データにより、最大で190国(2011年)の(PPP変換済)所得と人口データが得られる。各国の国内所得分布データについては、SoltによるStandardized World Income Inequality Database(SWIID)Ver.5を用いた。SWIIDは、世界のほぼすべての主要な所得分布データベースに基づき、広汎性と比較可能性の両立を目指して再構成されたものであり、最大で1960年まで遡り、世界174国のGrossおよびNet incomeの不平等度が記載されている。本研究では、これらすべてを組み合わせて、1990年以降直近に至る各年毎に0.5ドル刻みで詳細な世界的所得分布表と同分布曲線を計測し、それに基づき、ローレンツ曲線規準、ジニ係数、タイル係数、一般化されたエントロピー類、絶対的・相対的貧困度の推移を計測し有益な結果を得た。興味深い現象は、世界的所得分布曲線の二極分解性の急速な解消である。この要因としては、中国やインドをはじめとする人口稠密な新興経済諸国の急速な経済発展が有力な説明候補であると考えられるが、複数のシミュレーション分析の結果、説明は単純ではなくより複雑な要因の複合的な組合せによるものであろうことがわかった。これら成果は統数研共同研究「アジア諸国世帯統計ミクロデータの二次利用に関する研究」研究会(統計数理研究所2018年3月)で報告した。
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