研究実績の概要 |
本研究の目的は、個票パネルデータに基づく新たな動学的離散選択モデルの開発、および推定・検定方法の提案である。さらにこれらの手法を、就業や婚姻、出産といった、日本人女性のライフコース上の意思決定メカニズムの実証分析に応用する。 本年度の主な活動は、次の二点である。第一に、日本およびオーストラリアのパネルデータを用いた、労働者男女の就業状態の状態依存性の実証分析の修正である。この研究は4つの就業状態(正規雇用・非正規雇用・失業・非労働力)を遷移するdynamic multinomial logitの推定を行っており、次の要領で学術雑誌に掲載された。Kishi and Kano, “Labour market transitions in Australia and Japan: A Panel Data Analysis”, Australian Journal of Labour Economics, 20(3). 第二に、本研究計画で中心となる動学パネルデータ分析の手法として、間接推定(indirect inference)および繰り返しブートストラップ法によるバイアス修正を提案した(Kano, “Indirect Inference for Linear Panel Data Models with Predetermined Variables”)。間接推定とは、シミュレーションで擬似的なデータを発生させ、そこで推定される特定のパラメータ推定値と現実のデータから推定される推定値をマッチさせ、興味のあるパラメータ(ここでは変数の動学的な構造を司るパラメータ)に付随するバイアスを修正する手法である。本研究では、間接推定を一般的な先決変数を含むパネルデータ回帰モデルに適用しており、シミュレーションをもちいて、一定条件のもと、従来の代表的な推定法よりもよい有限標本上の性能を示している。成果の詳細は、日本経済学会2019年秋季大会で報告予定である。
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