研究実績の概要 |
本研究は自国市場効果(home market effect, HME)における理論と実証の乖離現象を消費者と生産者の角度から解明できた。消費者の面において、これまで代替弾力性が一定(CES)の効用関数を用いて一般均衡の枠組みが使われたが、実証に観察された競争促進効果や、markup率の変化を捉えることはできない。より一般的な変動代替弾力性の効用関数を用い、HMEを再度検証した結果、実証分析と同様に、HMEは必ずしも現れないことが分かった。さらに、markup変動の非単調性やunilateral tradeの発生メカニズムも明らかにした。生産者の面において、移動できる資本とMelitz異質生産性を取り入れる貿易枠組みを検証してきた。これまでの研究は地域間移動できない労働だけを生産要素と仮定している。その結果、新古典貿易理論、Krumganの新貿易理論、Melitzの新新貿易理論の枠組みが同じ単純な貿易利益の測量公式を持つことが分かった。しかし、地域間移動できる資本を考慮すると、貿易利益の測量公式が大きく変わり、新古典貿易理論、新貿易理論、新新貿易理論の特徴を捉えることができた。 そして、グローバル化時代に、財の輸送費用、資本の移動費用、通信コストが低減する。本研究はそれぞれ国際間、地域間の所得格差と企業立地パターンに与える影響を明らかにした。貿易統合と伴い、各国は自国の利益を保護するため、さまざまな貿易保護政策を取っている。本研究はこれらの経済政策に焦点をあてた分析も行った。具体的に、非関税障壁による貿易保護競争を検証し、これまで仮定されていた自由貿易財としてのoutside goodの役割を明らかにした。特に、outside goodがなければ、一方的な関税引き上げは自国の利益を損なう可能性があることを指摘した。
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