スマートグリッド環境下において、地域の電力需要家を束ねるロードアグリゲーターは、消費者が価格変化や非価格的要素に対してどのように反応するかを考慮して意思決定を行う。このため、デマンドレスポンス(需要反応)の実態を明らかにすることが重要となる。そこで、実際のデータによる実証研究を行い、価格変化による効果は約15%、価格変化を伴わない節電要請の効果は約3%であるという結果を得た。また、価格変化による効果は持続性があるが、節電要請による効果は持続性が見られず徐々に低減することがわかった。これらの結果を最終年度の成果として取りまとめた。
研究期間全体を通じた顕著な成果は、排出権等のバンキングに関して、不完全競争下での戦略的・動学的な意思決定を説明する経済理論モデルを構築・分析し、さらに現実の市場データを使ったシミュレーションを行い、理論的な考察結果を検証したことである。特に、不完全な競争、不完全な裁定のもとで、支配的企業は、ある期に排出権価格を下げる方向に操作して、排出権を安い価格で購入して使用せずにバンキングをしておき、後の期に今度は逆に排出権価格を吊り上げる方向に操作して、以前の期にバンキングしておいた排出権を高い価格で売却する。従来の完全競争と完全な裁定を仮定した諸研究では、排出権価格がホテリングのルールに従い利子率で上昇する帰結を示している。これに対して、本研究では、不完全競争・不完全裁定のもとでは、市場支配力行使の結果として、排出権価格が利子率よりも高い率で上昇しうることを示し、ホテリングのルールが成り立たない可能性を示唆する。米国カリフォルニア州の現実の電力取引とCO2排出のデータを用いたシミュレーション分析の結果は、理論分析と整合的であった。
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