昨年度までの計量分析・現地聞き取り調査による研究成果に基づき、銀行ファイナンスの効率性-非効率性の発生メカニズム関する本格的な検証仮説を理論的に提示し、その計量経済学的な検証をおこなった。 1)検証仮説として、銀行ファイナンスが効率的な資金仲介をおこなえる条件は、第一に融資プロセス・融資自体及びその総額の決定に政治的要素が介入せず(企業のレントシーク行動の抑制)、第二に融資の対象企業が銀行がその企業の経営状況・生産技術・取引相手とその状況を熟知している、密な関係をもった比較的少数の企業であること(informed bank finance)、を理論モデルの形式で提示した。 2)この仮説を、企業・銀行ミクロデータの双方を使用し検証したところ、次のような結果を得た。第一に、政治的コネクションの強さが銀行融資へのアクセスを強化するのは国有企業に限られ、民営企業にはそのような傾向は見られなかった。第二に、民営企業が銀行融資にアクセスするには過去の良好な業績パフォーマンスを必要条件としつつも、将来の好調な業績を予見できる要素を持っていることが銀行側に知られていることが融資総額の決定に大きく影響すること、及びこの後者の条件を満たす企業は比較的限定されている。これらの観察結果は概ね検証対象仮説を支持するものであり、このようなメカニズムに基づく銀行ファイナンスが中国において比較的少数の民営企業への融資においては良好に機能していることを示唆している。 3)また、比較参照点である企業間信用ファイナンスでは、政治的コネクションの強さのその受信への影響について、銀行ファイナンスと同じ国有-民営企業間の差が観察される一方、特に経済的先進地である沿海部で取引ネットワークを通じての企業間での情報の流通が、過去の良好な業績が多くの企業において企業間信用受信の増大に直結することが分かった。
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