現代のLCC(Low Cost Carrier)をビジネスモデルの点からみると,オリジナルと言えるサウスウエスト航空モデルを強力に推し進めるLCCがある一方で,差別化戦略として,一部のサービスを大手航空会社(FSC:Full Service Carrier)に近づけたハイブリッド型のLCCも増えている.そこで本研究ではLCCのハイブリッド戦略のうち,①混雑空港(プライマリー空港)への就航と②FSCによる子会社LCCの設立という二つの戦略による影響について,以下の視点から実証分析を行った. (1)混雑空港へのLCC就航による非航空系収入への影響について (2)混雑空港へのLCC就航によるライバル航空会社の運賃水準への影響について (3)子会社LCCの就航による市場競争構造への影響について そして,(1)については,英国の事例から,LCCが1便増加することによる空港の非航空系収入の増分(限界収入)は,FSCの1便増加による増収分の2/3程度にとどまり,少なくとも非航空系収入の視点からは,容量制約を受けている混雑空港が,FSCの代わりにLCCを就航させるインセンティブを持たないことが明らかとなった.(2)については,羽田空港における事例から,スカイマークが就航していると,ライバル航空会社の運賃を1.7%引き下げる効果があることが分かった.(3)については,タイとオーストラリアにおける国内線市場の事例から,FSC・子会社LCC・独立系LCCのネットワークについて,FSCと独立系LCC,独立系LCCと子会社LCCの間には対立的な関係が,FSCと子会社LCCの間には代替的な関係があることが確認された.すなわち,FSCと子会社LCCが協力して独立系LCCに対抗すべくネットワークを構築していることが示唆され,かつ両国でほぼ同様の結論が得られた.
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