研究課題/領域番号 |
26380304
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
藤田 渉 長崎大学, 経済学部, 教授 (30264196)
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研究分担者 |
福澤 勝彦 長崎大学, 経済学部, 教授 (00208935)
丸山 幸宏 長崎大学, 経済学部, 教授 (30229629)
山口 純哉 長崎大学, 経済学部, 准教授 (40325692)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 貿易 / ネットワーク / 人的資源管理 |
研究実績の概要 |
本研究では中間財貿易理論への新しいアプローチとして、さまざまな貿易パターンの変化を記述可能な理論的基礎の構築を試みる。平成28年度までに国際投資の形態と貿易パターン変化の分析のため、日系企業の海外現地法人の調査を行い、迂回輸出や消費地生産などの従来型の投資のみならず、投資銀行的な企業行動や、対日系企業支援機能の重要性が把握された。そしてグローバル化したサプライチェーン・ノードや、買収した現地法人のコントロール拠点の形成には、その根源たる人的資源に着目する必要があることを明らかにした。平成29年には短期の変動とともに中長期の緩変動にまで視野を拡大し、興味深いパターン・ダイナミクスの抽出に研究を進め、ネットワーク的な貿易パターンは中間財だけでなく、連続的な単位で取引される生産財の一部も対象とした。それにより長期的なわが国の産業構造の変化と貿易パターンから、基礎的な消費財である繊維製品関連の特徴あるパターンが抽出された。これはリーダー企業を有する自動車や電気・電子産業などのサプライチェーンとは異なり、極めて分権的で流動的なサプライチェーンであると同時に、古典的であるために現代的なサプライチェーンとしての認識が曖昧であった分野である。短期間での投資・買収・提携により強力なグローバル・サプライチェーンを形成する現代的なネットワーク形成パターンとは異なり、極めてニッチな工業製品であり、またそれ自体がアトミックに貿易財として流出流入する工業ミシンという生産財が、規模の経済を持たない生産拠点を形成する。そして流出を続けた地域においては時間遅れをもってアパレル製品の輸入シェアが高まるという貿易パターンが生起する。興味深い点は個々には微細な生産財も、それによる日用的な消費財も、連続的な貿易データで記述されるため、一種の異時点間の貿易パターンとして分析可能になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画は、実態調査、理論的研究、実証的研究、政策の検討から構成される。平成26年度からの実態調査を最優先する計画により、短い期間にもかかわらず効率的な現地調査を行うことができた。平成27年度から28年度ではさらにその結果に追加的な調査を加え、理論的研究、および実証的研究に必要な知見を得ることができた。さらにネットワークの拠点形成と人的資源問題という、理論的研究において重要な足がかりを得ることができた。また公開データの新たな活用法も開発することが可能になった。並行して行ってきた理論的な調査も障害無く進捗しており、また実証分析の準備を整えた。そして28年度は、情報の相対的に入手しやすい日系企業の海外進出状況と貿易パターンの変化の関係についてデータの整理と経済ショックによる撤退や貿易量の変化などの、分析を進めた。そこでは本研究が着目している1拠点当たりの人員数減少はさらに進行しており、ミクロでの企業行動の変化と、貿易パターンというマクロ変化の関連が確認された。29年度では整備したデータセットを用いて、さらに中長期の緩変動にまで実証分析の範囲を拡大し、興味深いパターン・ダイナミクスの抽出の可能性を探った。ここで抽出されたパターンの一つとして工業ミシン貿易とアパレル製品の貿易の異時点間の興味深いパターンが見いだされた。これにより分析対象は現代的でリジッドなネットワークと、これに対し古典的でありながら現代のICTや輸送技術により一変している分権的で流動的なネットワークとの対比、また大規模投資の拠点形成によるノード化と、新品中古を問わず地域間を流動する微細な生産財によるファジイな集積化との対比などにより、ネットワークパターンの多様な把握が統一的な視点で可能になった。以上から、おおむね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方法としては、平成26年度から29年度に得られた結果を基にし、引き続き実証的研究および理論的研究、および経済政策との関連について検討進め、最終年度として研究成果の整理をはかる。理論的研究では研究期間中は引き続き先行研究のサーベイや、関連する複数の学問領域での成果の整理を行い、可能な限り研究成果へ反映させる。また実態調査の結果得られた情報は量のみならず質的にも予想以上の成果であるとともに、国内の調査の結果が追加されるため、その整理や分析が引き続き追加的作業として継続することはこれまでと同様である。そしてこれらをもとに研究発表の準備を行う。過去の研究サーベイから得られた貿易ネットワークの分析法や視点には見落とされてきた点がある可能性があり、新しいアプローチ法が見えてきたと考える。特に貿易ネットワークについては財と生産および消費の拠点による無機的なグラフではなく、人的資源問題が重要であることが浮上してきたことは成果の一つであった。人材の養成および拠点の形成や、労働の集約や移動について、これらの研究との融合を図りつつ、研究成果のまとめを目指す。
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