最終年度である本年度は、本研究課題で設定した2つの重要テーマの一つである「協同組合の持分市場」に関して、2つの進展をみた。一つは、協同組合の持分市場の機能と役割に関する理論研究のまとめとして “Are cooperative firms a less competitive form of business? Production efficiency and financial viability of cooperative firms with tradable membership shares” と題する論文を刊行したことである。これは、労働者協同組合および消費者協同組合の持分を株式会社の持分(つまり株式)と同じフレームワークの中で取り扱い、協同組合の持分市場が、原理的には株式市場と同様の役割を果たしうることを示したものである。もう一つは、協同組合の持分市場の事例として、オスロ市においてノルウェーの住宅協同組合に関する現地調査を行ったことである。ノルウェーの住宅協同組合は、ICA(国際協同組合同盟)に加盟する協同組合であるが、自らの持分を市場で取引している数少ない協同組合の実例である。ノルウェーの住宅協同組合については、英文で書かれた文献がほとんどなく、これまでその実情はよくわからなかったのであるが、この現地調査により、こうした住宅協同組合の持分が実際にどのようにして市場で取引されているのかについての情報を得ることができた。 一方、もう一つの重要テーマである非営利組織研究については、かねてから考えていた文化・芸術分野の非営利組織に関する研究に着手し、オーケストラの経営形態をテーマにした “On the emergence of non-profit orchestras” と題する論文を執筆した。
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