研究課題/領域番号 |
26380312
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
田邉 勝巳 慶應義塾大学, 商学部(三田), 教授 (90438995)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 非航空系 / 二面性市場 / 経済的規制 / 空港間競争 |
研究実績の概要 |
平成28年度は、前年度に引き続き日本の航空旅客市場における空港間競争、空港への経済的規制、航空会社間の競争などに関する理論・実証研究のサーベイを行い、空港が民営化された場合にどのような空港利用料を設定するかシミュレーションを行った。 具体的には、1.航空路線を説明するデータベースを構築、2.集計データを利用して、同質的なネスティッドロジットによって国内航空旅客需要を推定、3.航空会社の費用関数を求め、便数と運賃の決定構造を識別、4.空港の航空系・非航空系の可変費用関数を推定、5.4つのシナリオに基づく航空系・非航空系価格をグリッドサーチで求めた。 ラムゼイ価格に基づくシナリオでは、航空系だけの場合、羽田は現状より値下げ、広島は値上げ、釧路は大幅に値上げとなり、羽田以外は総余剰が低下する。また、非航空系と統合した場合、航空系・非航空系とも値下がりし、総余剰は改善するが、釧路は固定費の負担が重く、ラムゼイ料金は不可能である。また、航空系だけを規制する場合、航空系と非航空系を規制する場合、両者の総余剰の差が殆どないことが分かった。 利潤最大化のシナリオでは、航空系料金は釧路、広島、羽田の順に高いものとなった。限界費用の乖離度では広島が一番独占的な価格設定となる。この理由は平均航空運賃に由来するが、新幹線との競合の結果、長距離路線だけが残っているからだと推察された。また羽田が比較的料金を高められない理由は、空港間競争も要因の1つとして考えられる。非航空系と統合した場合、航空系料金・非航空系料金ともに低下するが、それは僅かな程度であった。ただし、非航空系部門単体は赤字となるので、空港は非航空部門を売却する可能性がある。 交渉シナリオの結果は独占と同じ傾向であった。ただし、羽田の統合の場合では、現状の84%程度の余剰減で済み、簡便な経済的規制でも対応できる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度までの大きな問題であった、航空路線ごとの均衡航空運賃・便数が、一部路線で現状値と大きく乖離する問題は、一定の仮定を置くことで、安定した結果を得ることが可能になった。その為、現時点では3空港だけであるが、当初の研究目標としていた、空港の価格設定を幾つかのシナリオ(独占、ラムゼイなど)に基づいて試算を行い、一定の知見を得た。非航空系事業の存在が、ビジネス面で考えられているほど、規制の文脈では大きな役割を果たしていないことが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は当初、想定していた研究目標にほぼ到達したが、以下に示す幾つかの点でモデルを改善する必要がある。1.羽田、広島、釧路以外の空港のシミュレーション結果を得る。2.非航空系のモデルは非常に強い仮定を置いており、空港間の異質性を考慮した、より現実に即したモデルに改良する。3.空港混雑に起因する外部不経済額を測定し、それを含めた余剰を求める。4.乗客当たり料金でなく、距離当たり料金といった他の料金体系導入による総余剰の変化を分析する。上記に加え、航空会社の空港制約やその他制約を考慮した意思決定、路線への参入退出など動学的な意思決定を含めたモデルへの拡張を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
先に指摘した通り、本研究は当初、想定していた研究目標にほぼ到達したが、1.羽田、広島、釧路以外の空港のシミュレーション結果を得る。2.非航空系のモデルは非常に強い仮定を置いており、空港間の違いを織り込んだ、より現実に即したモデルに改良する。3.空港混雑に起因する外部不経済額を測定し、それを含めた余剰を求める。4.乗客当たり料金でなく、距離当たり料金といった他の料金体系導入による総余剰の変化を分析する。これらの点でモデルを改善する必要がある。また分析結果を国内外の学会、研究会などで発表し、分析の精度を高め、論文とするために一定の資金が必要であった。
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次年度使用額の使用計画 |
海外学会への出席、英語校正費などに支出する予定である。
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