本研究の目的は学術研究と科学技術における知識の集積拠点である大学における知的相互作用の実態を理論的かつ実証的に解明するというものである。これまで①研究者間の知識のスピルオーバーの計量分析と②教員から学生への知識のスピルオーバーの計量分析という二つのテーマに則して分析を実施してきた。 研究内容①に関して言えば、昨年度までに、米国特許データを利用した研究者間の知識のスピルオーバーの計測を完了しており、その結果に基づき、近距離バイアスを低下させる新たな計量経済学的手法(局所線形密度法)の開発と提案を終えている。本年度はその研究成果のとりまとめを行いTesting for localization: A new approachという題目の英文ワーキングペーパーを執筆し、国際学会誌への投稿を行った。 研究内容②については、大学教員が実施する研究指導の効果を指導大学院学生の研究成果の成長への貢献として定量化した。そのために学生の研究成果を指導教員の「質」と関連づけるセミパラメトリック付加価値モデルを導入し、研究指導の「質」の下限を推定した。昨年度までに実施した研究により大学教員の研究指導は指導学生の研究業績の成長に無視できない影響を及ぼしているという研究結果を得ている。本年度はその成果を元にEvaluating Professor Value-added: Evidence from Professor and Student Matching in Physicsという題目の英文ワーキングペーパーを執筆し、その研究内容を欧州の大学セミナーと学会、および北米の学会で報告し研究成果を広く流布することにつとめた。さらに、報告時に得られた研究者との議論および、反応を下敷きに、分析内容をさらに深め、現段階では、査読付き国際学会誌へ投稿する準備をすすめている。
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