本研究は、日本の企業や産業の詳細なミクロデータを用いて、政治的要因が企業行動やパフォーマンスに与える影響を実証的に分析するプロジェクトである。企業が政治とつながりを持つことにどのような含意があるかについて1920-30年代の上場企業のデータを集め分析を行った。そこでは、企業と政治のつながりを調べるために、企業役員でかつ衆議議院議員になっている人物を政治家役員と定義し、これらを識別することを試みた。そこで得られた結果として、当時の 主要企業の約 20%が少なくとも役員メンバーに政治家役員を抱えていた。さらに、株式市場が政治との関係をどのように評価しているのかに ついて分析を行った。そこでは、新たに企業が政治とつながりをもった場合、株価収益率が上昇していることが確認された。この研究は2017年2月に国際学術誌に出版された。今年度はさらに、政治とのつながりが企業ダイナミクスにどのような影響を与えるかにいて検証するために、企業と政治の関係を観察可能な変数として捉えやすい戦前日本の銀行産業のデータを用いて実証的な視点で分析を行なった。分析では、銀行と政治のつながりを捉える際、政治家役員の存在に着目した。すなわち、銀行役員でかつ政治家(衆議院議員)になっているものを個別銀行ごとに調べ、このような政治家役員が存在する銀行を“政治的関係を持つ銀行”と定義した。1920年代と1930年代における役員データを分析した結果、約5%の銀行が政治家役員を通じて政治との繋がりを持っていた。また、政治的関係を持つ銀行と持たない銀行の間で退出確率や退出パターンに差があるのかについて分析を行った。退出パターンを吸収合併、対等合併、破綻の3つに区別し、政治的関係の影響を分析した結果、銀行の政治的関係は統合による退出確率を高め、対等合併による退出を有意に高める結果が得られた。
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