研究課題/領域番号 |
26380327
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
河村 哲二 法政大学, 経済学部, 教授 (20147010)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | アメリカ経済の回復 / 財政の崖 / 量的緩和(QE) / 出口戦略 / グローバル成長連関 / 製造業の復活 / シェール革命 / 都市状況 |
研究実績の概要 |
本研究は、基盤研究(A)(2009-12年度)の成果を受け、世界経済回復の最大の焦点であるアメリカ経済の回復過程の特質と問題点を、(1)金融・財政、(2)実体経済――産業企業動向と主要都市状況(金融危機後の住宅・グローバルシティ状況)が焦点――の二面から、その世界的影響を含めて実態的に解明するものである。26年度は、在米研究の機会を最大限利用し、①マスメディア・Web情報、各種論稿の収集と分析と、所属先(Department of Economics, Univ. of Mass., Amherst)における、Michael Ash産業・企業)、 Gerald Epstein(金融)、 James Crotty(金融)、Robert Pollin(マクロ政策)、 David Kotz(制度分析)、 Carol Heim(都市論)各教授等の専門研究者との日常的な議論および各種Workshopでの議論を通じて、事態の経過のリアルタイムなフォローを進めるとともに、②アメリカ各地の実態調査を軸に研究を進めた。②については、かつて金属加工業の全米拠点の一つであるコネティカット川流域の近隣地域("Precision Valley")やボストン等ニューイングランド、カリフォルニア州の都市と産業実態調査(私費にて実施)と並んで、当初計画にはなかった主要シェールオイル地帯でかつ農業の重要性の高い北西部のモンタナ、南・北ダコタ、コロラド、アイダホ、ミネソタ各州等について、都市および農村部の実態調査を実施した。研究成果は、Economic Theory Workshopで報告(研究成果欄に記載)するとともに、共著書2冊(出版社入稿済み)と編著1冊の担当章執筆と編集作業を進めた(研究成果欄に記載)。またテキスト『現代アメリカ経済』(有斐閣、2003年)の増補改訂作業を進め、基本部分を仕上げた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
26年度における、1)リアルタイムの事態の推移のフォロー、および、2)都市状況・産業動向の実態調査を柱とした、在米研究機会を最大限利用した研究活動を通じて、研究課題に対して主に次の3点についての基本動向が把握できたことで、研究はほぼ計の画通りに進捗していると判定できる。 ①「財政の崖」・医療保険(「オバマ・ケア」)問題でとりわけ中間戦況を巡って顕著に現れた、「格差社会」の拡大と人種間亀裂が重複したアメリカの社会的分断の拡大を原因とした民主党・共和党の政治的アポリアによって連邦財政の機能不全が続くなか、経済回復の政策的フレームワークが民間金融部門の機能不全を大規模に代替・補完するFRBによる異例の「量的緩和(QE)」に大きく依存する状況が続いている。しかし、②実体経済の回復は、住宅市場、企業設備投資、雇用・消費動向の弱さなどで緩慢である――かつての「グローバル成長連関」拡大の「エンジン」であった民間金融部門の機能回復が十全ではないことと相まって、世界経済の減速(EU経済の不調や中国その他BRICS経済の減速)により、グローバルな要因による経済回復は不十分であること、その一方、国内の基幹産業では自動車産業などの回復が進んでいるが、製造業国内回帰はいくつかの企業の動き以外は鈍く、また中東情勢ともあいまった世界的需要減退を通じた原油価格の下落が消費動向のプラス要因ではあるものの、「シェール革命」による国内経済牽引効果が減殺されていることなどが主因となって、国内経済の成長連関の拡大は十分進んでいないことがその主な要因である。そのため③金融の「出口戦略」の発動は先延ばしされており、金融改革の課題も先送りされている。 これまで解明できた以上の基本的な研究成果に、27年度、28年度の研究計画に基づく研究成果を加えることによって、本研究課題の研究目的は、十分に達成可能と見込まれる。
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今後の研究の推進方策 |
在米研究終了に伴い、27年度から研究拠点を日本に移し、収集済みのデータ・資料と関連文献の分析と整理、および実施済みの現地実態調査結果の整理を進め、各側面のより立ち入った解明と研究の総合化をはかる。27年度は、第1に、都市状況・産業企業動向に関する現地実態調査を含め26年度の研究成果の整理と分析を進めるとともに、そのフォローアップや他の重要地域の実態調査と、26年度に果たせなかった各地の専門研究者との研究交流を進める。第2に、資料・データ・文献分析を通じて、引き続き財政・金融関係の事態の推移(とりわけ「出口戦略」の展開)を追跡する。現地実態調査に関しては、具体的には、①産業動向・都市状況調査: 1) アメリカ製造業復活の鍵を握る自動車産業の内外の主力工場の立地する中西部・南西部――とりわけテキサス州、アラバマ州等、および「シェール革命」の中心地であるペンシルベニア州北部~ニュヨーク州南部――の実情調査、これと関連し、2)それぞれの中心都市――シンシナティやピッツバーグ、デトロイト、オースティン等を含む――の都市状況調査、②各地域および全体的な金融状況・金融政策(連邦準備銀行が中心)動向、住宅金融の聞き取り調査を実施する。ただし実態調査に関しては、予算と日程が限定される上、調査先の受け入れに依存するため、上記①、②について、優先順位をつけ、現地専門研究者との協力関係も勘案しながら、重点地域と対象を選定し、渡米調査(27年8月を予定)を行う(可能なら28年度にも一部実施する)。以上の研究活動と並行して、研究成果の主要点を整理し、テキスト『現代アメリカ経済』(有斐閣)の増補改訂を仕上げ、出版する。最終年度である28年度には、研究全体の総括を進め、論文にまとめ公表する(法政大学経済学部紀要『経済志林』などを予定)とともに、学会発表(アメリカ経済史学会、経済理論学会など)を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究機関による事務処理の関係で、26年度に使用した経費が27年度扱いとなったため。
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次年度使用額の使用計画 |
上記の理由により、実際の次年度使用額はほとんど発生していないため、とくに使用計画はない。
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