研究課題/領域番号 |
26380327
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
河村 哲二 法政大学, 経済学部, 教授 (20147010)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | アメリカ経済 / グローバル金融危機・経済危機 / グローバル成長連関 / 量的緩和 / 出口戦略 / 財政制約 / グローバル・シティ / 新興経済 |
研究実績の概要 |
本研究は、基盤研究(A)(2009-12年度)の研究成果と知見・在米研究(2013-14年度)の成果を受け、グローバル金融危機・経済危機からの世界経済回復の最大の焦点であるアメリカ経済の回復過程の特質と問題点を、在米研究によるリアルタイムな事態のフォローを核に、データ収集と分析、実態調査、米国研究者との研究連携・協力を組み合わせ、(1)当面最大の問題である金融(「量的緩和」の転換と制度改革)と連邦財政問題、および、(2)その影響のもとでの産業企業動向および主要都市状況(金融危機後の住宅・グローバル・シティ状況)を中心とする実体経済動向の二面を焦点とし、その相互影響と世界的影響を含めて解明し、日本の成長戦略・政策対応の中期的(3年-5年)展望と指針を得ることを目的とする。平成27年度は、在米研究終了に伴い研究拠点を日本に移し、収集済みのデータ資料および関連文献の読み込みと分析に、この間の新たな展開についての研究を加え、最終年度に向けて研究の総合化を図った。その結果、主に、(1)「グローバル成長連関」の機能不全と財政制約が続くなか、国内の成長連関の形成は十分ではなく、依然アメリカ経済回復は緩慢であること、そのため、(2)いったんは「量的緩和」の終了と利上げに転じたFRBの金融政策は、中国その他新興経済に対する影響が大きいことと相まって足踏みを続けている、という2点が明らかになった。こうした知見を織り込んでこれまでの研究成果を、図書3冊(理論面・アメリカを含む先進経済・新興経済に関する共著書)にて刊行し、得られた理論的知見は、経済理論学会第63回年次大会共通論題報告にて公表した。さらに編著1冊の刊行(アメリカ―新興経済関係の編著)を進めた。当初計画した渡米現地調査は、在米研究時と大きな状況変化が見込まれなかったため最終年度に先送りしたが、全体に研究は計画以上に進展している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成26年度の、1)リアルタイムの事態の推移のフォロー、および、2)都市状況・産業動向の実態調査を柱とした、在米研究機会を最大限利用した研究活動を受け、平成27年度は、研究拠点を日本に移し、収集済みのデータ・資料・関連文献の分析と現地実態調査の成果および現地研究者との議論の整理・分析に、さらにこの間の新たな展開についての研究を加え、主に次の4点の知見を得た。 (1)金融危機前の「グローバル成長連関」の基本関係はFRBの異例の「量的緩和」(QE)で維持されているが、民間金融部門の機能不全が続き、アメリカおよびグローバルな成長を促進する機能は大きく低下している。 (2)大統領予備選動向にも顕著に現れている「格差」拡大・中低所得者層の不調が改善されず、社会的分断と亀裂による政治的アプリアによって財政制約が依然大きい。 (3)そのため、実体経済面では、住宅市場、企業設備投資、雇用・消費動向など、アメリカ経済の回復は依然緩慢である。 (4)一定の経済回復を受けて、FRBの金融政策は、金融機能の正常化に向けて、異例の「量的緩和」の終了と利上げに転じたが、中国その他新興経済の減速を招き、その影響が大きいため、「出口戦略」は足踏みを続けている。 以上の知見を織り込み、これまでの研究成果を図書3冊(理論面およびアメリカを含む先進経済・新興経済に関する共著書)にて刊行し、また、理論面での知見を経済理論学会第63回年次大会の共通論題報告として発表した。さらに1冊の刊行(アメリカ―新興経済関係の編著)を進めている。昨年度計画したこれまでの研究成果と現地実態とを付き合わせ、また現地研究者との意見交換を図る渡米現地調査は、在米研究時と大きな状況変化がないと判断されたため、国内研究を優先して平成28年度に先送りしたが、研究実績から判断して、研究は計画以上に進捗していると判定できる。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度、27年度の研究実績に立って、最終年度である平成28年度は、第1に、都市状況・産業企業動向に関する現地調査を含め、これまでの研究成果の整理と分析を進めるとともに、そのフォローアップや他の重要地域の実態調査と専門研究者との研究交流を進める。第2に、1)財政・金融動向(とりわけ「出口戦略」)、2)産業・企業動向とマクロ経済指標の分析を焦点とし、新興経済などグローバルな相互影響にも注目して、これまでの研究成果の整理と総合化を図る。現地実態調査に関しては、①産業動向・都市状況調査-とくに自動車産業動向や「シェール革命」の中心地(ペンシルベニア州北部~ニュヨーク州南部)およびサンフランシスコ、ロサンゼルス、ニューヨークなどの中心都市を重点調査し、あわせて②主要研究者との研究交流を通じて、アメリカ経済回復過程の特徴と問題点について、これまでの研究成果とつきあわせて検証する。ただし予算と日程が限定される上、調査先の受け入れに依存するため、上記①、②について、重点地域と対象を選定して渡米調査(9月を予定)を行う。また、今後の米国経済動向に深く影響を与える政治プロセスについて、大統領予備選挙のトランプ、サンダース現象に見られる社会的分断と亀裂の実態と反グローバリズム的な内向き志向についてより立ち入った分析を進める。比較目的で、東京のグローバル・シティ状況と国内地域との関係の事例研究(群馬県利根・沼田地方を予定)も手がける。全体として、年度末までに最終研究成果をまとめ、その主要点を織り込んで、この問進めているテキスト『現代アメリカ経済』(有斐閣)の増補改訂(ほぼ90%終了)を完成し、刊行するとともに、研究成果を論文にまとめ、学会発表(経済理論学会など)、大学紀要『経済志林』)、学会誌(『季刊経済理論』など)に投稿し、研究成果概要を研究室専用HPにて公開するなど、積極的に公表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画していた本年度の渡米現地調査を、在米研究時(2013年3月-2015年3月)と大きな状況の変化が想定されなかったことから、本年度は国内研究を優先し、研究課題におけるこれまでの分析による主な研究実績の総合化ととりまとめにあて、そうした研究の成果による主な知見を、現地調査による経済実態、および米国現地研究者との研究交流・意見交換を通じて検証することに重点を移して平成28年度に実施することにしたため。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度未使用額は、主に、平成28年度実施に先送りした渡米現地調査(平成28年9月に約2週間を予定)における渡航費・宿泊費・その他調査費用と、国内事例研究費用、関連資料・データ収集およびその処理費用に充当する。
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