平成29年度は,平成28年度終了予定だった研究課題の遅延分と,本研究課題の最終年度であるので,研究期間全体の総括を行った. 本研究は研究期間を通じ,結果として以下の成果を得た.1.期待インフレ率の日英比較,2.DSGEモデルによる期待インフレ率の理解,3.戦前期の物価と期待インフレ率の関係 1について,平成28年度までに内閣府等,政府公表の期待インフレ率データを扱う手法の分析・研究を進めてきた.この研究成果は,期待インフレ率を統計的な分布に当てはめる際の誤差の計測や,混合分布で理解する手法,先験的な統計的分布を仮定せずにモーメントで当てはめる手法などにより発展させてきた.こうした成果を利用し,日本のデータのみならず,英国のデータを当てはめることによって,期待インフレ率のさらなる理解を進めた.英国のBank of Englandのデータは日本のデータと対応する箇所が多いので,混合分布による理解を進め,論文として執筆した.2について,期待インフレ率はフォワードルッキングの変数である.マクロ経済モデル上,どのように扱われているかを整理し,モデルの手法をまとめた.3について,戦前期の日本経済をデータによって分析を行った.期待インフレ率は金融政策と大きな関連性があるが,金融政策が物価自体に影響を与えるかどうかの検証である.財政政策より金融政策の効果を統計的に得ており,この成果を論文として執筆している. 全体を通して,期待インフレ率の非合理性,経済政策をすべて織り込まない性質を成果として強調できるだろう.2において,マクロ経済モデルで合理的期待を前提とすることが多い中,1や3の成果は期待インフレ率の系列が合理的期待を前提とできないことを示すものである.この成果を利用することは,期待インフレ率データの経済学的利用を大きく進展させるものと考えられる.
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