研究課題/領域番号 |
26380350
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研究機関 | 熊本学園大学 |
研究代表者 |
坂上 智哉 熊本学園大学, 経済学部, 教授 (50258646)
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研究分担者 |
加藤 康彦 熊本学園大学, 経済学部, 准教授 (80331073)
宇野木 広樹 熊本学園大学, 経済学部, 助教 (80626721)
井上 寛規 京都大学, 経済研究所, 研究員 (90635963)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 経済成長 / ネットワーク外部性 / 進化計算 |
研究実績の概要 |
平成26年度は,経済成長モデル班,ネットワーク形成ゲーム理論班,シミュレーション班による研究を相互に進め,以下の通りの成果を得た. まず,経済成長モデル班とネットワーク形成ゲーム理論班(以下,理論分析班)では,ネットワーク外部性を伴う経済成長モデルの構築を行った.一般に内生的経済成長モデルの議論では,人的資本と物的資本が生産関数に用いられ,それぞれが何らかの外部性を持つと仮定される.我々は,その外部性が他国との経済ネットワークの締結により生じると考え,特にA,B,Cの三カ国からなる経済ネットワーク構築問題を,物的資本がネットワーク外部性を有する場合を中心に分析を進めた.これは,他国が設備投資を積極的に行うことがリンク(ネットワーク)を通じて自国の生産にも正の影響をもたらすことを意味している. 定常状態での資本ストック,消費,投資の水準を求め,リンク形成のインセンティブを検討した.その結果,例えばB国とC国の間でリンクが形成された場合,A国に対する潜在的ネットワーク外部効果が高まるので,A国にとっても他国とのリンク形成のインセンティブが高まることが明らかになった. 次に,シミュレーション班は理論分析班の協力のもと,航空ネットワークを題材にシミュレーション手法の研究を進めた.具体的には,日本の大手2社による国内主要空港間の就航撤退競争の分析を試みた. その際,進化計算の手法として粒子群最適化に倣った学習を行うPBIL型マルチエージェントアルゴリズムの開発を行った.この探索アルゴリズムを実装したシミュレーションにより,純粋戦略におけるナッシュ均衡ネットワークを導出し,航空会社間の競争は路線数の増加とそれに伴う利用者の利便性の向上を引き起こすことを明らかにした.これにより人々の移動,すなわち人的資本の流動が活性化され,そのネットワーク外部性からの経済成長を押し上げる可能性がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度の研究目標は,理論分析班が「ネットワークと経済成長を融合した理論モデルの構築」であり,シミュレーション班が「探索アルゴリズムの改善」であった. 理論分析班は,物的資本がネットワーク外部性をもつ場合の理論モデルの構築を手掛け,シミュレーション班は粒子群最適化に倣った学習を行うPBIL型マルチエージェントアルゴリズムを開発し,いずれも研究目標に沿った一定の成果を得ている. このことから(2)の「おおむね順調に進展している」が妥当すると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度の研究目標は「理論モデルのシミュレーションの実施」である.これは理論分析班とシミュレーション班が連携を密にして進める必要がある. 具体的には,物的資本のネットワーク外部性として,ネットワークを結んでいる相手国に工場が建設された際に,その工場への中間財供給の増加や,生産技術のスピルオーバー等を通じて自国の生産も増加するような状況を想定した国際的分業ネットワークモデルのシミュレーションを実施する.まず,ネットワーク自体は所与として,1期間ごとにランダムに工場が建設されるケースによるシミュレーションを試みる.これを下敷きに,国家の意思決定問題としてのネットワーク設計問題または複雑ネットワーク形成モデルを組み込む形での拡張を行い,より高度なシミュレーションへとつなげる.具体的なデータを用いたケーススタディの可能性についても検討したい. また,平成26年度に成果が得られなかった課題として,「人的資本がネットワーク外部性を有する場合の成長モデルの構築」がある.この研究は,理論モデルのシミュレーションと並行して進める予定である. 最終的には,国際的なネットワーク形成に関する政策分析を手掛ける予定であるが,中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)に関するネットワーク問題もその対象に含めることが可能か検討したい.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究分担者のうち,平成26年度の配分額が少なかった2名(井上寛規氏と宇野木広樹氏)が,平成27年度の成果発表としての旅費を確保するために,支出を若干切り詰めたためである.
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次年度使用額の使用計画 |
研究分担者の井上寛規氏および宇野木広樹氏は旅費として使用する予定である.
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