研究課題/領域番号 |
26380355
|
研究機関 | 小樽商科大学 |
研究代表者 |
水島 淳恵 小樽商科大学, 商学部, 教授 (80536334)
|
研究分担者 |
板谷 淳一 北海道大学, 経済学研究科, 教授 (20168305)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 所得再分配 / 公共財の自発的供給 / 不平等 / 社会厚生 |
研究実績の概要 |
平成27年度は、所得再分配政策に注目し、公共財が自発的に供給される経済において『社会的選好』を有する経済とそうではない経済のそれぞれにおいて、どのような所得再分配を行えば社会全体の厚生水準を高めることができるのかを分析した。 これまで、公共財の自発的供給が行われる経済における厚生分析では、どのような公共財を供給すれば社会厚生が改善するかといった議論が主流であり(Bergstrom, Blume and Varian (1986), Boadway and Hayashi (1999))、所得再分配政策が社会厚生に与える影響に関してはあまり注目されてこなかった。そうした中、Itaya et.al (1997)は公共財の自発的供給が行われる経済においては、不平等促進政策が社会厚生水準を高めることを明らかにした。Itaya et.al(1997)は、レーガン・サッチャー政権下において、トリクルダウン効果を期待した大企業や富裕層への経済支援(所得再分配促進政策)の理論的側面を持つが、上記の所得再分配政策は、期待される成果を遂げることはできず、所得格差の拡大を助長させることとなった。その結果、所得平等促進政策に対する期待と共に、その理論的裏付けが求められている。そこで本研究は、公共財が自発的に供給される経済において、所得平等促進政策が経済厚生を高めることができることを、公共財を複数・個人の異質性を導入することで新しい理論モデルとして完成させた。新モデルでは、以下の3点を明らかにすることができた。最初の点は、所得平準化政策は社会厚生水準を高めるという点である。次に、所得不平等促進政策は、個人が他人に対して利他性を有している場合には効果をもたないという点である。最後は、公共財の数を増やしてゆくと、所得再分配政策は所得不平等度水準にかかわらず、社会厚生水準を高めるという点である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度の研究として、本研究課題の一つである『個人の利他性が所得再分配を通じて社会厚生にどのような影響をあたえるか』を、"Should income inequality be praised? Multiple public goods provision, income distribution and social welfare"としてまとめることができた。本研究は、日本経済学会において発表するとともに、所属機関のDisucssion Paperとして発表するとともに、査読付き国際雑誌に投稿済みであり、現在査読中である。
|
今後の研究の推進方策 |
平成28年度は公共財供給のタイミングを考察することによって人々の『社会的選好』が所得分配によりどのように変化してゆくかを分析するとともに、社会厚生に与える影響に関しても考察する。 これまで、公共財供給は同時手番または逐次手番で供給されていたが、Bliss and Nalebuff (1984)をベースとして、同時手番・逐次手番それぞれの公共財供給が(1)所得分布・(2)公共財の数・(3)個人の選好に関する異質性においてどのように実現するかを明らかにしてゆく。 本稿の基本研究は"Endogenous Timing in the Private Provision of Public Goods"としてすでに分析が完了しており、国際財政学会(Association of Public Economic Theory)で発表予定である。基礎研究では上記で記した(1)の所得分布のみを扱っており、今後は、基礎研究に上記(2),(3)の分析を追加していくことにより、分析の精度をあげてゆく計画である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初は、論文投稿後のReviseを見越し、論文をRiviseした後の英文校正料を計画していた。しかし、論文査読に時間を有しており、現段階で投稿論文の回答を受領出来ていない。そのため、計画よりも経費の支出が後倒しとなり、次年度使用額を計上することとなった。
|
次年度使用額の使用計画 |
上記で説明したとおり、Revise論文に対する英文校正料として全額支出することを計画している。
|