研究課題/領域番号 |
26380357
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
新井 光吉 埼玉大学, 人文社会科学研究科(系), 名誉教授 (90212604)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | PACE / CCRC / 在宅CCRC(CCAH) / 壁のないCCRC / 介護支援サービス管理 / CCRC密着型PACE / CCRC付属型PACE / 入居金と月額利用料 |
研究実績の概要 |
PACE(高齢者包括ケアプログラム)は高齢者に対するケアの質向上と医療介護費の抑制を両立できるプログラムとして高い評価を得ているが、それに見合うような急成長を実現できていない。本研究は高齢者を対象に住宅・継続ケアを提供するCCRC(継続的ケア付高齢者コミュニティ)と包括ケアを提供するPACEを統合することによって後者の成長を促進するために実態調査を踏まえて実現可能なモデルを構想しようと考えている。 そのため本年度は前年度に引き続き、6月と9月の2回にわたりアメリカで「PACEプログラムも提供しているCCRC」の実態調査を行い、「PACEとCCRCの統合」が高齢者の入院・施設入所の抑制に顕著な効果を上げていることを確認した。その一方で、この統合があまり広く普及していないことも明らかとなった。NewCourtland 高齢者サービス(ペンシルヴェニア州)とLoretto・PACE CNY(ニューヨーク州)の調査では、「PACEとCCRCの統合」がある程度有機的に行われ、PACEの包括ケア・サービスによってCCRC入居者のほとんどがナーシングホームへの入所を回避し、従来通りの生活を継続することが可能となっていた。このようにPACEとCCRCの有機的な統合が高齢者ケアにシナジー効果をもたらすことを確認した。 また「PACEとCCRCの統合」を長年唱道してきたNPA(National PACE Association)のCEO、S・ブルーム氏にもインタビューし、この統合の全米における現状、問題点、今後の展望などについて議論することができた。これまでの文献研究や実地調査から得られた自分なりの研究成果がこの分野の最も重要な専門家であるブルーム氏のコメントを通じて修正され、あるいは確認されることにより客観的な知見へと改善されたと思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまで私はアメリカのCCRCの実態調査を3回行い、本研究を進める上での貴重な知見を得た。特にNPAのCEO、S・ブルームとの議論は私の暫定的なモデルの有効性を再確認する一方で、部分的な修正を必要とすることも明らかにした。しかも「PACEとCCRCが有機的に統合」されているケースはほとんどなく、極めて稀なケースで有機的統合がある程度行われているというブルーム氏の説明はこれまでの私の実態調査や文献研究からも同意できるものであったので、モデルを若干修正する必要があると考えるに至った。 またNewCourtland Senior ServiceとLoretto・PACE CNYにおける「PACEとCCRCの統合」の実態調査は有機的な統合が行われている稀なケースに属することが確認された。この2つのケースも要介護老人の施設入所を抑制するという成果を上げているものの、完全な有機的統合(CCRC密着型PACE)が実現している訳ではない。これらを除けば、ほとんどケースは多角化の一環としてPACEを所有する「CCRC付属型PACE」にすぎなかった。 そこで、次の新しい動向に着目しながらモデルを修正することにした。即ち、CCRCのサービスをキャンパス(敷地)から高齢者の自宅に持ち込むという「在宅CCRC(壁のないCCRC)」が近年、注目を集めており、その中でPACEは高齢者が要支援・介護状態になっても自宅に留まれるように保証する役割を担うことが期待されている。この「在宅CCRC」は統合を生かしながら成長の可能性が見込まれる新しいモデルとなり得ると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
過去2年間の研究は「PACEとCCRCの統合」が実際には有機的な「CCRC密着型PACE」というよりは「CCRC付属型PACE」にすぎないということを確認した。しかしPACEは要介護老人の在宅生活の継続を保証しながら費用を抑制できるという実績を上げてきた。そのため高齢者の医療介護にPACEを活用することはベービーブーマーの高齢化が進むアメリカでは不可欠なことと考えられる(オバマケアもPACEの役割を重視)。 本研究は既にWorking Paper Series No.12(埼玉大学経済学部、平成28年3月3日)「CCRCとPACEの統合による高齢者包括ケア」において成果を公表しているが、なお解明すべき課題として「在宅CCRC」におけるPACEの役割が残されている。 有機的な「CCRC密着型PACE」の実現が容易でないとすれば、CCRCのサービスを高齢者の自宅に持ち込み(AタイプのCCRC契約に類似)、比較的低料金で提供する「在宅CCRC」の中でPACEの役割を生かすという形で有機的に機能する「CCRC密着型PACE」プログラムの成長を図れるのではないかと思われる。 「在宅CCRC」は2015年末までに25のプログラムが営業する予定になっている。そこで、平成28年度はこれらのプログラムのうちから資料が得られ、他のモデルにもなり得るようなプログラムを取り上げ、その構造と発展の可能性について考察することにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度助成金は僅かに9,508円が未使用金として残り、28年度に使用することになった。この次年度使用額が生じた理由は、平成28年度が本研究の総括を行う3年目の研究期間に当たるので、残された課題を調査する際に生じる費用に充当するのが望ましいと考えたからである。やがて必要となるプリンターのトナーを購入することも考えたが、今は残された課題を調べるためにできるだけ予算を残して置くべきだと判断した。 というのも、Working Paper Series No.12「CCRCとPACEの統合による高齢者包括ケア」の執筆中に「在宅CCRC」について更に詳細に調べ、モデルを修正すべきだと痛感したからである。そのため「在宅CCRC」に関する資料収集と、必要があればアメリカでの調査も考えている。
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次年度使用額の使用計画 |
本研究課題を一応まとめた結果、まだ明かにすべき課題が残されていることに気づいた。そこで、次年度使用額と平成28年度受領額を合わせて、まず残された課題である「在宅CCRC」の構造と機能、今後の発展可能性を明らかにし、新たな「PACEとCCRCの統合」モデルを構想したい。できるだけ多くの文献を読み、もし必要であればアメリカに調査することも考えている。研究書もなく、論文も少ないので、自分の足で情報を集めて歩く必要があると思われるからである。
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