研究課題/領域番号 |
26380360
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
柳原 光芳 名古屋大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (80298504)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 教育経済学 / 中央集権 / 地方分権 |
研究実績の概要 |
平成27年度においては,中央集権・地方分権の既存研究の整理と,財政競争の既存研究の整理を行うとともに,教育・人的資本蓄積の中央集権・地方分権モデルへの導入を行うことを研究計画としていた。 まず,既存研究の整理については,日本地域学会年次大会において報告を行った論文「人的資本蓄積における公教育支出による垂直的財政外部性と同僚効果による教育外部性」の中で,また早稲田大学現代政治経済研究所のセミナーにおいて報告を行った「Federal and State Public Education Expenditures, Human Capital Accumulation, and Vertical Fiscal Transfers」の中で,簡単な整理を行っている。 次に,教育・人的資本蓄積の中央集権・地方分権モデルへの導入については,後者の論文を以下の様な形で拡張を行うことで前者の論文を作成した。第1に,教育における地域内の同僚効果を導入した。第2に,住民の教育投資が親の教育時間によってなされるものとした。それを受け,第3に,重複課税が労働所得税になされているものと想定した。そして,同僚効果が中央・地方政府の設定する労働所得税の水準と,公的教育投資水準に影響を与えることを示し,教育政策には同僚効果を考慮すべきであるというインプリケーションを得た。 このような中央集権・地方分権と教育の問題に加えて,研究の進展とともに教育の供給主体の性質についても考察すべきであるとの結論に達した。具体的には,教育の供給は単純に公的部門が担うということに留まらず,公的な主体と私的な主体が混在した中で行われるという形で考える方向もありうるという結論に到達した。そこで,平成27年度においては,混合寡占市場を専門とする研究者の方々の助力により,混合寡占市場研究会を3回開催した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度においては,上でも書いたように中央集権・地方分権の既存研究の整理と,財政競争の既存研究の整理を行うこと,それを踏まえて教育・人的資本蓄積の中央集権・地方分権モデルへの導入を行うことを目標としていた。これらの当初の目標については,上に挙げた2本の論文「人的資本蓄積における公教育支出による垂直的財政外部性と同僚効果による教育外部性」と「Federal and State Public Education Expenditures, Human Capital Accumulation, and Vertical Fiscal Transfers」の研究報告を行うことで,達成することができたと言える。特に前者については,学会での研究報告で得ることのできた討論者からの助言および示唆から,論文の修正を行い,それを査読付き雑誌への投稿へとつなげることができた。 これに加えて,教育の問題への混合寡占市場の導入の発展可能性を考えることができたことも,今年度の成果として加えることができる。教育のマクロ経済理論については,その多くが普遍的な理論としての人的資本蓄積の問題を扱っており,やや教育的側面を考慮したもので公教育と私教育の違いに注目するぐらいにとどまっている。しかし,公共経済学の1つの流れである混合寡占市場の研究が,教育の理論モデルに導入しうることがわかったことは,次年度そしてそれ以降の研究の深化に貢献するものと考えられる。特に,平成27年度において3度開催した混合寡占市場研究会から,それを具体的な形で考えることができた。したがって,この点については,当初の計画にはなかったものの,派生的な方向とはいえ,研究をより発展できたものと考える。 以上のことから,現在までの進捗状況はおおむね順調に進展しているものと判断する。
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今後の研究の推進方策 |
上でも述べたように,平成27年度においては,当初の研究方向に加えて,教育の中央集権・地方分権の理論分析への混合寡占市場の導入の可能性を考えることができた。そこで今年度は,まず混合寡占市場に関するモデルについて,どのような形での拡張がありうるかについて考えていく。具体的には,財政学・地域学関連の学会において研究報告を行うことで,他の混合寡占市場を専門とする研究者の方々から助言を得ていく。それにより,混合寡占市場の理論自体の理解を深める。それとともに,得られた成果を書籍の形でまとめていく。 このような形で混合寡占市場の理論の特徴を一定程度理解した上で,それを本格的に教育の中央集権・地方分権の理論への導入を図っていく。そのためには,2つの段階にしたがって進める必要がある。まず第1に,静学の中央集権・地方分権の理論への導入を図ることである。これにより,混合寡占の中で教育を考えた場合に帰結がどのように変化するかが顕著な形で表すことができる。第2に,静学モデルの中に蓄積メカニズムを導入することで動学化を行うことである。このときには本研究でもすでに行っている人的資本蓄積を考えることとする。また,それを考えることにより,中央政府と地方政府がいかなる形で住民の人的資本蓄積に対する役割を担っていくべきかを明らかにすることができる。 これらの成果は,当初の今年度の予定にもあった,研究報告・雑誌への投稿に結びつけるように心がける。さらには,何らかの形で社会への発信を試み,実際の教育「市場」の姿を描写,紹介した上で,人的資本蓄積を効率的に行うことを可能とする政策の提示を考えていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
洋書の出版にかかわり、英文校正の費用を支出した際、当初予定の金額よりも少ない金額におさまったため。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度執筆する論文は当初の予定よりも若干多くなることが期待される。そのため、その英文校正の増額分に使用する計画である。
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