研究課題/領域番号 |
26380366
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研究機関 | 下関市立大学 |
研究代表者 |
中川 真太郎 下関市立大学, 経済学部, 准教授 (20522650)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | リスク削減 / 被害削減 / 公共財 / 外部性 / 公共経済学 / 防災 |
研究実績の概要 |
IIPFで報告した”Voluntary Disaster Prevention in a Metropolitan City: A Theoretical Analysis”は、前年度に日本財政学会で報告した論文を改訂したものである。この論文では、大都市での地震防災を公共財の自発的供給モデルを用いて分析し、都市の区域内の住居が災害に耐える確率は、火災のリスクを考慮すると、人口密度の減少関数となり、かつ、区域内の所得不平等度の減少関数となることを示した。さらに、対称経済では、この確率は一括固定税で調達された補助金によって上昇させられることを示した。また、当該区域の人口密度が低い場合、防災補助金は防災活動の過剰供給をもたらすことを示した。これらの結果は、先行研究の実証分析の成果を説明し、大都市直下型地震への防災に対して重要な経済理論的示唆を与えるものと考えられる。 オーストラリア国立大学でのワークショップで報告した” On the Number of Players Voluntarily Contributing to Two or More Public Goods”は、「Nash均衡を記述する連立方程式が過剰決定系ではない」という仮定の下で、複数の公共財に同時に自発的に貢献する経済主体の人数を分析し、その人数が公共財の種類の数以下となることを示した。ここから、多数の経済主体による複数の公共財の自発的供給問題では、ほとんどの経済主体は高々1種類の公共財にしか貢献しないことが含意される。現実の防災は、ボランティア活動、NPOへの寄付など様々であり、複数の公共財が自発的に供給される状況と解釈できる。本研究は、こういった状況では、ほとんどの家計は高々1種類の防災活動にしか貢献しないという理論的予想を与えるもので、防災における新たな市場の失敗を示唆する研究成果であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度は、先行研究の文献調査と整理、学会等での研究動向の調査を行った。また、Ihori, McGuire, and Nakagawa(2013)のモデルをもとに、複数の経済主体が自発的に防災活動を行うモデルを構築した。 平成27年度は、人口密集地で大地震が発生するケースを想定した経済理論モデルを構築し分析した。このモデルでは、都市を複数の区域(ブロック)に区分し、区域内のある住宅で発生した火災が他の住宅に延焼するケースを想定した。そして、Ehrlich and Becker (1972)型のリスク管理モデルをもとに公共財の自発的供給モデルの枠組みを用いて理論を構築した。 平成28年度は、主として、(1)公共財の自発的供給モデルを用いた大都市直下型地震への防災に関する研究、(2)防災問題のように複数の公共財が家計により自発的に供給される状況での市場の失敗に関する理論研究、および、(3)政府による防災公共財の供給に関する研究に取り組んだ。 (1)の研究に関しては、前年度までの研究成果を踏まえ、更に研究を掘り下げた論文をIIPFで報告した。その後、論文の改訂作業を進めた。 (2)の研究結果は、オーストラリア国立大学で開かれた公共経済の国際ワークショップで報告し多くの貴重なコメントをいただいた。その後、論文の改訂と投稿準備を進めた。(3)の研究についても、政府の防災公共財供給が家計による防災公共財の自発的供給に与える影響に関する理論モデルの構築・改良と分析に取り組んだ。 研究はおおむね計画に沿って進捗しており、研究成果は国際学会等で報告してきている。しかし、国際学術誌への論文の掲載については、現在までのところ成果を上げられていない。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、防災公共財の政府供給に関する前年度の研究成果を論文にまとめ学会等で報告していく。また、これまでに学会等で報告した論文を積極的に国際学術誌等に投稿していく。その上で、更なるモデルの拡張を試みる。具体的には、民間経済主体による自発的防災活動の外部性の度合い、家計の選好・所得や想定される被害の分布などが、政府の防災活動と民間の防災活動をあわせた、経済全体としての防災活動の均衡供給量にどのように影響するのかを分析する。また、企業活動の影響についても考慮する。最後に、これまでの分析を総合して、災害の態様や社会の状況に応じた最適な防災政策のあり方を明らかにすることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じたのは、次年度の英文校正費として使用するためである。次年度は研究の最終年度であり、これまでの研究成果を積極的に投稿する予定である。近年は、これまで以上に国際学術誌の要求水準が高くなっていることから、投稿前に十分に英文校正を行えるよう配慮したためである。
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次年度使用額の使用計画 |
上述のように、当該使用額については英文校正費等に使用したいと考えている。
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