平成28年度においては、従前から行っていたマイクロデータの収集・加工および研究者、企業団体などへのヒアリング調査を追加的に行い、最終的な分析を行った。 第一に「韓国事業体パネル調査」のパネルデータなどを分析した結果、非正規職保護法の制定以降、事業所で有期契約労働者を使っている事業所は多くなく、使っていても無期契約に転換した事業所は少数にとどまっていることが明らかになった。 第二に「経済活動人口調査雇用形態別付加調査」のマイクロデータなどにより、産業別に分析した結果、①全体的に雇用が正規化するなか、有期契約労働者の一部が他の非正規の雇用形態にシフトしている産業、②全体的に雇用が非正規化しており、特にパートへのシフトが大きい産業があることが明らかになった。有期契約労働者の労働条件は、他の非正規の雇用形態と比較して良いこともわかっており、①については労働者の待遇の二極化、②については労働者の待遇が総じて悪化したことがわかった。 第三に、定義では正規雇用労働者に分類されるが、雇用が不安定で労働条件も悪い「脆弱労働者」の実態も上記マイクロデータなどから分析した。その結果、脆弱労働者は、零細・小規模企業の労働者が多く、労働条件は非正規雇用労働者と変わりないことを明らかにした。この結果、零細・小規模企業が非正規職保護法に対応して有期契約労働者を無期契約に転換しても実際の効果は小さいことがわかった。 研究期間全体を通じて実施した研究成果により、①無期契約労働者の定義上が非正規職保護法の制定に対応しておらず、非正規比率で効果を判断する際には留意が必要、②有期契約労働者を無期契約に転換させている企業は多くない、③非正規職保護法への企業の対応もあり非正規雇用労働者の労働条件が総じて悪化した産業がある、④零細・小企業については、非正規職保護法の効果がないことが明らかになった。
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