研究実績の概要 |
本年度は計画期間の最終年度であるため,これまでの研究成果の発表に重点を置いた.論文1を,人口経済学の専門誌に掲載した(Journal of the Economics of Ageing, Elsevier).論文2を含む図書を,中央経済社から出版した(奥野信宏・八木匡・小川光編著『公共経済学で日本を考える』). 1. Grandparental child care, child allowances, and fertility 児童手当と出生率の関係は,単純な理論を用いた分析では結果が容易に予想できる.児童手当により子どもの養育コストが低下する.したがって,一般的には,価格低下により子どもの需要が増加する.すなわち,児童手当により出生率は上昇する.しかし,実証分析の結果は必ずしもこの帰結が正しくないことを示している.本稿では,高齢社会の特徴の1つである,祖父母の育児協力を考慮したモデルを構築し,児童手当の支給にともなう税負担が祖父母の育児協力を減らし,結果として,児童手当が出生率を引き下げる可能性があることを理論的に明らかにした. 2. 「国債管理政策-財政・経済・人口の持続可能性のために-」 日本では,(1) 国債残高と1人あたり所得,(2) 国債残高と出生率,の間に負の相関が見られる.本稿では,これらの観察と整合的なモデルを構築し,国債管理を強化することにより,財政の持続可能性のみならず,経済成長率や出生率を回復できることを理論的に示した.また,シミュレーション分析を用いて,長期的な視点での財政運営が重要であることを明らかにした.
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