人的資本を蓄積させる要因と蓄積を阻害する要因を特定し、その程度を厳密に計測することは、労働生産性、経済成長、賃金格差等を考える上で重要であり、労働市場政策、教育政策の議論のためにも重要である。 本研究では蓄積の要因として学校教育を、阻害の要因として震災を取り上げ、それらが賃金に与える影響を計測した。研究の特徴は、賃金への平均的な効果のみでなく、賃金分布のどの部分にどの程度の影響を与えるのかを計測することである。 学校教育の影響の分析では、個票データを用いて学校教育の収益率を推定し、その収益率が賃金分布の各分位によってどの程度異なるのかを明らかにした。得られた結果は、賃金の低分位よりも高分位において教育の収益率は大きく、現行の学校教育は欧米諸国と同程度に賃金格差を拡大させていると言える。特に低賃金層における収益率は経時的に低下する傾向があることが確認された。 震災の影響の分析では、2012年の個票データを用いて、1995年の阪神淡路大震災が17年後の賃金分布にどのような影響を与えたのかを実証的に明らかにした。具体的には、Machado and Mata(2005)の改良版の手法により、被災者と非被災者の賃金分布の差を二つのグループの属性の差の部分と震災の影響の部分に分解し、震災の影響の部分が賃金分布のどの分位で大きいかを推定した。そして、被災前の属性の違いで影響が異なるかも分析を行う。得られた結論は次の通りである。第1に、Blinder-Oaxaca分解によると、震災から17年という長期の後にも男性労働者の平均賃金に対して震災は負の影響を与えていた。第2に、DFL分解によると、震災は中賃金男性の賃金を引き下げていた。第3に、Machado-Mata-Melly分解によると、震災は中賃金男性の賃金を5.0~8.6%引き下げ、高賃金女性の賃金を8.3~13.8%引き下げた。
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