これまでの研究では、地方歳出の効率化と地方財政調整制度とはそれぞれ別個のテーマとして取り扱われており、個別自治体の歳出に地方財政調整制度が与える効果は明示的・総合的に示されてこなかった。本研究では、地方歳出の効率化測定の手法と実証的な研究結果について考察し、歳出に非効率性が認められる費目があることを確認した。包絡分析法(DEA:Date Envelope Analysis)や確率フロンティア分析(SFA:Stochastic Frontier Analysis)などの非効率性を測定する手法の進展にともない、保育サービスや公共投資などに加えて病院や交通事業などの公営事業についても非効率性が観察されている。これらの研究において注意すべきは、公的部門内での相対的な効率性であり、民間部門の効率性との対比ではないことである。 地方一般財源の財源保障を行ってきた地方交付税制度の興味深い取り組みについても研究した。公的部門内の相対的な効率性という側面をうまく活用しているのが、基準財需要額算定に際し2016年度から本庁舎清掃・夜間警備や体育館管理および一般ごみ収集(市町村分のみ)など16業務について適用されるようになった「トップランナー方式」である。この方式は民間委託や指定管理者導入などを前提として必要な費用を見直すものであり、今後対象業務拡大を検討することになっている。このように、わずかとはいえ、現実の地方財政調整制度に、歳出効率化を促進するメカニズムが組み込まれたことは、本研究の方向性である効率性と財政調整の関係を現実的に支持するものと考えることができる。 本来は、歳出の効率化と並行して検討されるべき歳入面での自主的な努力については、本研究では取り扱わなかった。今後の研究課題としたい。
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